研究課題/領域番号 |
17K11281
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
園田 顕三 九州大学, 医学研究院, 准教授 (30294929)
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研究分担者 |
中林 一彦 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 周産期病態研究部, 室長 (10415557)
秦 健一郎 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 周産期病態研究部, 部長 (60360335)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 子宮平滑筋肉腫 / 染色体微細構造解析 / DNAメチル化解析 / 遺伝子発現解析 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
本研究では、術前診断における子宮平滑筋腫との鑑別が困難で、悪性度が高く治療方針に苦慮する子宮平滑筋肉腫および類縁疾患を解析対象としました。染色体構造解析、DNAメチル化解析、遺伝子発現解析等により構成されるOMICS解析から子宮平滑筋肉腫に特異的なバイオマーカーの抽出を試み、早期診断と効果的治療法に帰結させることを本研究の目的とし推進してきました。早期診断および標的治療に有用なバイオマーカーを抽出し子宮平滑筋肉腫の治療成績を向上させると伴に、本研究手法をさらに発展させ他悪性腫瘍の早期診断・治療成績向上に帰結させることを究極の目的として進捗させています。 「現在までの進捗状況」に詳述しますが、研究開始初年度である平成29年度では(1)子宮平滑筋肉腫の検体を用いたOMICS解析と(2)子宮平滑筋肉腫におけるRCAS1発現解析につき進捗させました。(1)は子宮平滑筋正常細胞から悪性細胞に至る悪性化の経路について解析を行う目的で施行しています。(2)は研究代表者がこれまで従事してきた研究内容を発展させるものです。RCAS1は子宮体癌(内膜癌)症例の年齢・進行期・筋層浸潤・腹腔内細胞診陽性と有意な相関を認め、多変量解析ではRCAS1発現は転移および頸部間質浸潤と共に全生存期間に関する独立した予後因子でした。同じ子宮体部から発生する悪性腫瘍である平滑筋肉腫についても、RCAS1発現と臨床的意義につき解析を行いました。平成29年度には、研究進捗に基づき医学誌・学会等で成果の発表を行ってきました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)子宮平滑筋肉腫の検体を用いたOMICS解析:子宮平滑筋正常細胞から悪性細胞に至る悪性化の経路について解析を行う目的で、子宮平滑筋肉腫の検体から抽出したRNAからRNAシークエンス用のライブラリーを作製し、次世代シークエンサーで網羅的解析を施行しました。得られた遺伝子発現情報とDNAメチル化情報を比較し、最終的には各組織型に特異的なmolecular signatureを同定する作業を行っています。これらの分子生物学的解析によって得られたデータを用いて、腫瘍の臨床病理因子・予後との相関について統計学的解析を行う予定です。この解析により得られる各腫瘍のmolecular signatureは細胞生物学的特性に関して理解可能となるのみならず、細胞同定による検査法や標的治療法の確立へ帰結することが期待できます。 (2)子宮平滑筋肉腫におけるRCAS1発現解析:腫瘍の悪性度を規定する複数の臨床病理因子と相関し、15種類の悪性腫瘍の予後因子であることが報告されているRCAS1の発現解析について免疫組織染色を使用しました。10症例(conventional:6症例、myxoid:2症例、epithelioid:2症例)による解析では、発現なし:2症例、低発現:2症例、高発現:6症例であり、RCAS1は腫瘍細胞の胞体内に顆粒状に染色されました。経過観察期間中央値:19ヶ月(12~84ヶ月)にて、RCAS1発現なしおよび低発現群では4症例全てが生存していましたが、高発現群では6症例中2例が腫瘍死していました。
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今後の研究の推進方策 |
(1)候補分子の発現を人為的に変化させた際の細胞特性の解析:molecular signature解析により得られた細胞特性を表現するバイオマーカーの発現を人為的に変化させた細胞株(強制発現またはRNA干渉による発現ノックダウン)を用いた発現分子プロファイルの変化、細胞増殖、細胞遊走能・浸潤能等に関してin vitro解析を行います。また、これらの細胞株をヌードマウス皮下等に移植しin vivo造腫瘍能を解析します。 (2)候補分子による診断能の検証:前述したように、子宮平滑筋肉腫は平滑筋腫との術前における鑑別は極めて困難です。本研究で得られた特異的バイオマーカーの発現について、細胞診・組織診検体を用いて解析を行います。さらに、本研究では末梢血細胞も検体として解析を行います。検出法としては、樹脂マイクロ流体チップを用いて細胞を分離・回収した後のpolymerase chain reaction(PCR)法、特異的抗体での細胞染色およびflow cytometry解析等が考慮されます。 (3)候補分子をターゲットとした標的治療の構築:特異的バイオマーカーをターゲットとした分子標的治療法としては、複数が候補として考慮されます。即ち、①特異的抗体の作製、②化合物アレイを使用したsmall substance同定、③RNA干渉による発現ノックダウン等が考慮されます。RNA干渉システム使用時には効率良い組織デリバリーおよび発現システムの開発を併せ試みます。 (4)子宮平滑筋肉腫におけるRCAS1発現解析:上述した研究成果を基に、子宮平滑筋肉腫におけるRCAS1発現に関する生物学的・臨床的意義につき解析を行います。診断時・手術後に採取される検体を用いてRCAS1発現を解析することは、予後および術後治療に関する情報を提供する手段となり得る可能性があります。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進捗させるうえで、臨床情報の抽出・解析や実験条件の設定を要しました。これらの準備が整った後に研究費を支出する対応としたため、次年度使用額が発生しました。
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