研究課題/領域番号 |
17K11289
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
宮城 悦子 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (40275053)
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研究分担者 |
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
宮城 洋平 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 総括部長 (00254194)
荒川 憲昭 国立医薬品食品衛生研究所, 医薬安全科学部, 主任研究官 (60398394)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 卵巣明細胞癌 / TFPI2 / 血液凝固 / 血栓症 / 前向き観察研究 |
研究実績の概要 |
卵巣明細胞癌は他の組織型と比べて抗癌剤が効きにくく予後不良例が多いとされている。しかし、代表的な卵巣癌マーカーであるCA125は、卵巣癌全般の検出には優れるものの、組織型の鑑別性能を有していないことに加え、明細胞癌の陽性率が低い、良性腫瘍である子宮内膜症で高値となり内膜症からの明細胞癌発症を正確に診断することが出来ないといった問題がある。本年度は、特異度の高い明細胞癌マーカーの候補として、分泌型セリンプロテアーゼインヒビターであるTFPI2(Tissue Factor Pathway Inhibitor-2)に着目した臨床研究を開始するとともに、卵巣明細胞癌の悪性進展におけるTFPI-2役割に関しての分子メカニズムの解明に着手した。 1.医師主導での卵巣癌治療経過における血清TFPI2の推移に関する前向き観察研究に着手した。初回手術前の血液検体を良好な条件で保管しており、寛解状態または担癌で化学療法試行中の患者を選定し、平成30年度にフォローアップ採血を実施する研究計画書を作成、近日中に開始予定としている。 2.基礎的研究として、外科切除卵巣癌組織のホルマリン固定パラフィン包埋病理検体におけるTFPI2タンパク質の免疫染色と臨床病理学的解析に着手した。さらに細胞株を用いて、相同組換えで、TFPI-2遺伝子の翻訳開始コドンを含むエクソンをノックアウト(OK)し、同部に、マウス移植実験でのイメージングを想定したルシフェラーゼ遺伝子を導入するCRISPR/CAS9系のKO実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①医師主導の前向き観察研究プロトコール作成:卵巣癌治療経過における血清TFPI2の推移に関する前向き観察研究のプロトコールを完成し、現在倫理委員会で審査を受けている。対象は、承認後速やかに横浜市立大学附属病院と奈良県立医科大学附属病院において、初回手術前の血液検体を良好な条件で保管しており、寛解状態または担癌で化学療法試行中の患者約50人である。病状と血清TFPI2の相関を明らかにする研究を近日中に開始できる状況を整えた。観察研究の主要評価項目は、術前および術後経過観察時における血中TFPI2値およびCA125値の変化、副次評価項目を術後化学療法中~経過観察時の病状に伴うTFPI2値の変化の検討、術後経過観察時のCA125とTFPI2の補完性の検討とした。 ②基礎的研究:外科切除卵巣癌組織のホルマリン固定パラフィン包埋病理検体におけるTFPI2タンパク質の免疫染色と臨床病理学的解析については、細胞株のマウス移植腫瘍、外科切除検体での免疫染色を実施し、本抗体が卵巣癌組織でも良好な染色結果を示すことを確認した。CRISPR/CAS9系のKO実験準備では、適した2細胞株を選定、現在、CRISPR/CAS9のKOベクターを遺伝子導入し、薬剤選択性による細胞のクローニングを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
①医師主導の前向き観察研究:横浜市立大学附属病院と奈良県立医科大学附属病院において対象とした患者約50人に対し、早期に文書による同意を得て、採血を開始する。この前向き観察研究により、卵巣明細胞癌を含む卵巣癌患者の病状と血清TFPI2の相関が明らかになり、腫瘍マーカーとしての有用性が示せれば、商品化・保険適用取得の可能性が高くなる。また、術前・術後経過観察時に、腫瘍マーカーとしてのCA125とTFPI2の補完性を証明できれば、実臨床での有用性が極めて高くなるため、その評価のための中間解析も実施していく方向である。 ②基礎的研究:卵巣明細胞癌培養細胞でのTFPI2遺伝子ノックアウトとその形質変化の解析相同組換えで、TFPI-2遺伝子の翻訳開始コドンを含むエクソンをノックアウト(OK)し、同部に、マウス移植実験でのイメージングを想定したルシフェラーゼ遺伝子を導入するCRISPR/CAS9系のKO実験系を完成させる。この実験系により、血栓症のハイリスクである卵巣明細胞癌が、本来は血液凝固阻害因子のはずであるTFPI2を産生分泌する分子メカニズム、悪性形質発現も含めた新たなTFPI2の機能が明らかになる可能性がある。また、マウス移植実験系を確立することで、新たな治療標的分子を検索できる可能性があり、さらに検討を進める。
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