研究課題/領域番号 |
17K11294
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
嵯峨 泰 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70360071)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | バソヒビン1 / バソヒビン2 / インドールアミン酸素添加酵素 / 腫瘍免疫 / 微小管 / アデノ随伴ウイルス |
研究実績の概要 |
血管新生調節因子であるバソヒビン1(VASH1)による、血管新生と腫瘍免疫寛容を標的とした新たな治療戦略確立のため、免疫抑制酵素インドールアミン酸素添加酵素(IDO)に対するVASH1の発現抑制機序の解明を試みた。最近、免疫チェックポイント阻害剤に対する癌の耐性機構として、細胞障害性Tリンパ球やナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫担当細胞が分泌するインターフェロンγ(IFN-γ)に対する、癌細胞内シグナル伝達系の異常が報告された(Cell 2016)。IFN-γは腫瘍細胞のIDO発現のメディエーターのひとつである。そこで、IFN-γに対する反応性とVASH1との関係を検討した。その結果、IFN-γの受容体下流のJAK-STAT経路に異常を持つ卵巣癌細胞では、既報のとおりNK細胞に抵抗性を示した。一方、以前にわれわれがVASH1強制発現によりIDO発現低下を観察した卵巣癌細胞ではJAK-STAT経路に異常はみられず、NK細胞感受性が確認された。このことから、JAK-STAT経路に異常を持つ卵巣癌細胞はIDOとは無関係に免疫担当細胞に耐性を有すると判断されたため、以後の検討はJAK-STAT経路正常の卵巣癌細胞を対象に遂行した。VASH1強制発現卵巣癌細胞のIFN-γ刺激後のIDO発現を観察したところ、コントロールに比べてIDO発現の低下が認められた。このことから、VASH1によるIDOの発現抑制機序のひとつとして、IFN-γ刺激に対する抑制が示唆された。また最近、バソヒビンファミリーは微小管の重合を促進する酵素であるチューブリンカルボキシペプチダーゼと類似の活性を有するとの報告がなされた(Science 2018)。微小管は卵巣癌治療の基幹化学療法剤のひとつであるパクリタキセル(PTX)の標的分子であり、バソヒビンファミリーの卵巣癌治療への応用において注目される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VASH1のIDO発現抑制機序のひとつとして、IFN-γに対する反応性低下作用が示された。さらに新たな課題であるバソヒビンファミリーと卵巣癌のPTX感受性を明らかにするため、癌細胞株のバソヒビン発現を検討した。その際、癌細胞でのみ高発現がみられるバソヒビン2(VASH2)に注目した。VASH2を高発現する癌細胞を対象にゲノム編集技術を用いてVASH2をノックアウトしたところ、一部の細胞でPTX感受性の変化が観察された。
|
今後の研究の推進方策 |
VASH1のIDO発現抑制機序の解明を進める。IFN-γ受容体下流の経路に注目し、VASH1強制発現による変化を観察する。さらに候補因子上流の阻害剤を用いてVASH1とIDO発現との関連を確認するとともに、新たなIDOを標的とした治療薬剤としての可能性を探る。卵巣癌および他の婦人科癌におけるVASH2と微小管重合との関係を明らかにするとともに、PTX感受性との関係を検討する。現在研究開発中の抗VASH2抗体やVASH2ワクチンとPTXの併用による治療効果増強の可能性を探る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究テーマに関する他施設からの重要な報告が相次いだことから、今年度はそれらを検証するためのin vitro実験を優先して行った。これらの実験は既存の施設や消耗品で行うことができること、また高額な実験動物を必要としないため、研究費の次年度使用が生じた。これらの検証には引き続き動物実験が必須であるので、次年度以降その費用として執行する予定である。
|