バソヒビン2ノックアウト卵巣がん細胞株を複数樹立し、臨床的に卵巣がん治療に用いられている種々の抗がん剤に対する感受性の変化を観察した。これまで上皮性卵巣がんに対する多剤併用化学療法の基幹薬剤のひとつであるパクリタキセルに対する感受性が増強することを見出し、バソヒビンの微小管活性促進作用と合わせて考察し報告した。またパクリタキセルとは逆に微小管活性を阻害する抗がん剤で、非上皮性の卵巣がん治療に用いられるビンクリスチンに対する感受性の変化を観察した。その結果、複数のバソヒビンノックアウト卵巣がん細胞株においてビンクリスチンの感受性の低下が観察された。このことから、バソヒビン2を標的とした治療戦略とビンクリスチンを含む化学療法レジメの併用には注意を要する可能性が示唆された。しかしながら、現在ビンクリスチンは卵巣悪性腫瘍のなかで多くを占める上皮性卵巣がん治療に用いられることはまれであり、また非上皮性卵巣がんにおいてもビンクリスチンを含まない化学療法レジメが推奨されていることから、この知見の本研究を遂行する上での影響は軽微と考えられる。今年度は、本邦で開発され卵巣がんの2次化学療法に用いられる抗がん剤であるイリノテカンの感受性を中心に検討した。in vitroの検討ではイリノテカンの活性型であるSN38を用いた。その結果、検討した細胞株の中で一株のみ、バソヒビン2ノックアウトによってSN38の明らかな感受性低下が認められた。他の卵巣がん細胞株の感受性に変化は見られなかった。バソヒビン2を標的とした治療法を臨床応用する際には、イリノテカンとの併用により効果が低減する可能性が示唆され、注意が必要と考えられた。
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