研究課題
ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染による子宮頸癌の発生には、細胞の変異原タンパク質APOBEC3Bの発現上昇が重要な役割を果たしている。これまでにHPVの癌タンパク質E6が細胞転写因子TEAD4の発現を誘導し、TEAD4がAPOBEC3Bプロモーターに結合することで、APOBEC3Bの発現を上昇させることを明らかにしている(Journal of Virology, 91: e02413-16, 2017)。本研究は、TEAD4によるAPOBEC3B発現誘導の分子機構の詳細を明らかにし、TEAD4を介したHPV発癌機構の全体像を解明する。今年度はHPV癌タンパク質E7によるAPOBEC3B誘導機構を検討した。テロメラーゼ導入により不死化したヒト子宮頸部角化細胞(HCK1T)に、HPV16 E7及びRbと結合できないE7変異体(D21G, L22V/C24S/E26D)を、レトロウイルスベクターを用いて発現させた。細胞抽出液のウェスタンブロット解析を行ったところ、E7発現によりTEAD4の発現レベルが上昇した。この効果はE7変異体では認められなかったことから、E7によるRb結合及び分解がTEAD4の発現誘導に必要なことが示された。またTEAD4はプロモーター領域の認識DNA配列に結合するが、それ自体には転写活性化能はなく、転写の誘導には結合するコアクチベーターを必要とする。APOBEC3B プロモーターの活性化に働くTEAD4コアクチベーターを同定するために、リポーターアッセイを用いてコアクチベーター(YAP、TAZ、SRC3)の関与を調べた。その結果、YAPまたはTAZをsiRNAノックダウンしても、TEAD4によるAPOBEC3B プロモーターの活性化は変わらず認められた。一方、SRC3をノックダウンすると、APOBEC3B プロモーターの活性化が減弱した。従って、コアクチベーターとしてSRC3が関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、APOBEC3Bプロモーターの活性化に働くTEAD4コアクチベーターの候補を見出すことが出来た。
E6またはE7を発現するHCK1T細胞を作成し、親株細胞とTEAD4をノックダウンしたE6/E7発現細胞とで、次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析を比較して行うことで、E6/E7によるTEAD4上昇を介して、誘導もしくは抑制される細胞遺伝子群を網羅的に同定する。
年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。平成30年度は次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析を実施する予定。
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Journal of Virology
巻: in press ページ: in press
10.1128/JVI.00017-18
Infectious Agents and Cancer
巻: 12 ページ: 44
10.1186/s13027-017-0155-4