研究課題/領域番号 |
17K11310
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
加藤 友康 国立研究開発法人国立がん研究センター, 中央病院, 科長 (50224522)
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研究分担者 |
荻原 秀明 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (40568953)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 卵巣明細胞がん / ARID1A / クロマチンリモデリング / 患者由来細胞株 / 合成致死 / 最適化がん治療 / APR-246 / BSO |
研究実績の概要 |
ARID1A遺伝子は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体を構成する遺伝子のひとつで、卵巣明細胞がんの50%程度と高頻度に変異を認めている。我々は、ARID1A欠損がんの治療標的を探索した結果、ARID1A欠損がん細胞に選択制の高い化合物を同定した。一方で、卵巣がん細胞株は、病理学的、分子生物学的な特徴がもとの腫瘍とは異なる部分が多い。そのため、病態の理解と治療法の開発には患者の元の腫瘍を反映した卵巣がん患者由来細胞株モデルの構築が重要である。そこで本研究では国立がんセンター中央病院婦人腫瘍科で手術検体から卵巣がん患者由来モデルを構築し、病理組織学的、ターゲットシークエンスによる遺伝子検索を行う。さらに、これらの卵巣がん患者由来のモデルを用いて我々の同定したARID1A変異がん選択的阻害剤の有効性について検討する。 2018年度は、2019年度に構築した卵巣がん患者由来細胞株モデルを用いて、これまでに我々が同定したARID1A欠損がん選択的阻害剤の有効性について検討する。 我々は、ARID1A欠損がんの合成致死標的薬としてグルタチオン(GSH)阻害薬であるAPR-246およびGSH合成酵素GCLC阻害薬であるBSO(Buthionine Sulfoximine)を同定した。さらに、その分子機序としてARID1A欠損がんでは、GSH合成を制御するSLC7A11の発現が減弱することにより、GSHの基底量が低いことが弱点となり、GSH阻害薬によって合成致死性を示すことを明らかにした。そこで、上記の卵巣がん患者由来細胞株モデルにおいても検討した。その結果、卵巣がん患者由来細胞株モデルにおいても、ARID1A欠損型細胞では、ARID1A正常型細胞に比べてSLC7A11の発現が低く、それに伴いGSHが低い状態にあること、そしてAPR-246やBSOに選択性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
卵巣明細胞がんは症例数が少ない希少がんのため、国立がん研究センター中央病院において年間数十例と少ないものの、そのうち10%ほどの細胞株の樹立に成功している。そしてARID1A野生型およびARID1A欠損型の両方の細胞株を得ることができた状況にある。さらにこれらの細胞株を用いた研究成果を論文として報告することができた (Ogiwara,,,Kato, et al., Cancer Cell, 2019)。そのため、本研究課題は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
我々の先行研究で同定したARID1A変異がん選択的化合物APR-246、BSOと既存のARID1A欠損がんの候補化合物について、本研究課題で樹立した卵巣がん患者由来細胞株モデルを用いて、それらの有望性を比較し、臨床応用の基盤情報を獲得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:実験計画で予定していた動物実験よりも細胞実験に重点して研究を進めたため。次年度の使用計画は、動物実験や薬剤感受性試験に使用する予定である。
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