研究課題
本研究は、卵巣明細胞がん患者由来検体におけるARID1Aの病理学的、遺伝学的特長を検討する。さらに我々の同定したARID1A変異がんに対する阻害剤APR-246が既に報告されている候補薬剤に対して新規治療薬としての有望性を検討することを目標とした研究である。これまでにARID1A欠損がんの合成致死標的薬としてグルタチオン(GSH)阻害薬APR-246を同定した。さらに、ARID1A欠損がんでは、GSH合成を制御するSLC7A11の発現が減弱することにより、GSHの基底量が低いことが弱点となり、GSH阻害薬によって合成致死性を示すことを明らかにした。そこで国立がんセンター中央病院婦人腫瘍科で手術検体から卵巣明細胞がん患者検体について、遺伝子検索を行い、ARID1A野生型とARID1A変異型を特定し、さらにARID1Aタンパク質の発現を調べた。ARID1A野生型ではARID1AとSLC7A11タンパク質の発現が認められた。一方で、ARID1A変異型では、ARID1Aタンパク質が欠損した検体ではSLC7A11の発現の消失が認められた。しかし、ARID1A変異型で、ARID1Aタンパク質が認められる検体ではSLC7A11の発現も認められた。これらのことから、ARID1A変異型でもhomozygous変異の欠損型変異によってARID1Aタンパク質の発現が欠損することで機能が喪失し、SLC7A11の発現も減弱することが考えられた。卵巣明細胞がん細胞株モデルにおいて、APR-246およびPARP阻害薬等の既存候補薬についてARID1A欠損がんに対する選択性を調べた結果、既存の候補薬は必ずしもARID1A欠損がんに選択性を示さなかったが、APR-246はARID1A欠損がんに選択性を示した。よって、ARID1A欠損がんに対してGSH阻害薬は有望であると考えられた。
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