真珠腫性中耳に対する根治治療は現在、手術治療のみである。しかしながら術後の鼓膜陥凹や中耳癒着は制御困難で、聴力改善と真珠腫再発抑制を兼ね備えた新しい治療法が求められている。本研究はその第一歩として、中耳粘膜障害動物モデルを利用して、低侵襲かつ内耳障害の副作用を持たず、正常な中耳粘膜再生をもたらす治療法を開発することが目的である。 これまで中耳粘膜再生に関する基礎研究の報告は少なく、動物モデルによる中耳術後の充填材の比較や粘膜細胞を移植した研究が散見されるのみで、効果的な中耳粘膜再生を示した研究はない。我々は2017年より中耳粘膜再生に関する基礎研究の第一歩として、モルモットを用いて骨髄間葉系幹細胞の誘導因子であるhigh-mobility group box 1 (HMGB1)による中耳粘膜再生研究を開始した。この研究において、低侵襲な経外耳道的内視鏡下操作により中耳粘膜に限局した障害を起こすモルモットモデルを独自に開発した。一般的な動物モデルは耳後切開・中耳骨包削開による操作が行われているが、このアプローチは侵襲が大きく、治癒過程で骨削開部から中耳腔に肉芽が入り込むため、手術操作による二次的な組織変化の影響を排除できなかった。これに対し我々のアプローチは鼓膜切開を必要とするが鼓膜は数日で閉鎖するため、実験操作による中耳の二次的組織変化を排除することができた。この障害モデルに対して、HMGB1の中耳内投与による中耳粘膜再生を試みたが、治癒過程では中耳腔内に肉芽が増生し、有意な中耳粘膜再生効果を得ることはできなかった。HMGB1はむしろ炎症反応を亢進させると考えられ、HMGB1に代わる新たな薬剤として、ラビット副鼻腔粘膜で再生効果が報告されているビタミンA誘導体(レチノイド)を中耳粘膜障害モデルに投与し、部分的ではあるが、線毛上皮の再生を確認できた。
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