研究課題/領域番号 |
17K11317
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小池 卓二 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (10282097)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蝸牛モデル / 基底板振動 / 有毛細胞 / METチャネル / イオン流動 |
研究実績の概要 |
これまで開発してきた蝸牛モデルをベースとして,より効率的な計算を可能とするため,モデル各部のメッシュ分割方法およびパラメータの見直しを行った.さらに,外有毛細胞の能動性についても,より実際に近いものとなるよう,検討を行った.具体的な項目は以下の通りである. 1.蝸牛モデルの最適化 これまでのモデルに比べ,より計算の収束性を高めるため,モデルのメッシュ分割方法を見直し,モデル全体の再構築を行った.また,過渡応答解析の時間分割についても見直しを行い,計算の収束性の改善と結果の安定性の確保を行った.さらに,外有毛細胞の能動性を記述する式の再検討を行い,より実際に近い結果が得られるよう,パラメータの再検討を行った. 2.構築した蝸牛モデルの機械的振動の検証 ヒトの外有毛細胞の能動性の直接観測は事実上不可能であるため,歪成分耳音響放射の計測結果と解析結果を比較することにより,外有毛細胞の能動性の定式化を行った.計測では,市販の計測システムと比べノイズに強く,より高精度で多様な計測を行うため,独自のノイズ低減アルゴリズムを導入した新計測システムを構築し,健聴被検者に対して歪成分耳音響放射の計測を行った.計測で得られた結果とFEM解析で得られた結果とを比較し,外有毛細胞の能動性を記述する式のパラメータ決定を行った. 3.疾患シミュレーション 構築したモデルを用い,内耳疾患のシミュレーションを行った.今年度は,外有毛細胞の部分欠損および機能低下時の基底板振動振幅と歪成分耳音響放射レベル変化を解析した.その結果,歪成分耳音響放射のレベルと純音聴力との関係を明らかにし,さらに,基底板の基部側に存在する外有毛細胞が,それらに大きな影響を及ぼすことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高周波数域における解析で,計算が安定しない傾向が見られたので,全体的なモデルの見直しを行った.その結果,安定した計算結果が得られるようになったが,全体スケジュールとしては「やや遅れている」状況となってしまった.今後は,様々な疾患のシミュレーションを早急に行い,臨床知見と比較することで,解析の有用性を高めていきたい,
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,聴力像や歪成分耳音響放射の計測結果と数値解析結果を比較しつつ,蝸牛機能の個人差を加味したモデル構築を行っていく.このモデルを用い,内リンパ水腫などの各種内耳疾患の発生機序の解明,および耳音響放射の発生メカニズムの解明と臨床データの意味づけ,人工内耳電極デザインの最適化等の臨床応用を行う.具体的項目は以下の通りである. ・内リンパ水腫に伴う内耳状態変化による聴力低下機序の解明 ・有毛細胞挙動とotoacoustic emissions: OAEs の発生機序の解明 ・内耳疾患関連遺伝子が蝸牛内イオン電流(K+リサイクリング)に及ぼす影響の評価 ・人工内耳電極の最適設計
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次年度使用額が生じた理由 |
モデルの修正のため疾患シミュレーションの実施が遅れ,計算量が当初見込みよりも少なかったため,解析ソフトウエアライセンス購入を一部後ろ倒しした.次年度は予定通りライセンスを購入予定である.
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