ヒトやサルでは島後方のPIVC(Parieto Insular Vestibular Cortex)が前庭領野にあたるが、マウスなどの小型動物では同定されていない。PIVCの機能を解明するために、フラビン蛋白蛍光イメージングを用いてマウスの前庭領野を同定することが本研究の目的である。 まず、マウスに対して適切な前庭刺激を探ることから開始した。C57BL/6マウスを用いて、カロリック冷、温刺激によるそれぞれ前庭機能低下、亢進刺激を与えたが、平衡障害を示す眼振所見の再現性は高くなかった。次いで、経外耳道的に鼓室内に電気刺激を与えるガルバニック刺激を試みた。導電気刺激装置からアイソレーターを介してbiphasic刺激を出力し、針電極を前庭窓へ留置して刺激する方法である。他の動物種で実績ある刺激法だがマウスに行った報告はない。刺激周波数に応じて、低周波刺激ではPIVCと思われる前庭感覚野、より高周波刺激では聴覚野が反応する所見が得られた。 最終年度である今年度は、さらに遺伝子改変マウスを導入した。GCaMP6は、GFPを用いた蛍光カルシウムプローブタンパク質GCaMPの改変体である。本マウスはThy1プロモーター下でGCaMP6を発現するコンストラクトがトランスジーンされており、In vivoにおける神経活動の可視化が可能である。GCaMP6ではフラビン蛋白蛍光の数倍の強度でイメージングが可能であり、PIVCの同定に有用と考えた。C57BL/6マウスの時と同様にガルバニック刺激の刺激周波数により、低周波刺激ではPIVCと思われる前庭感覚野、より高周波刺激では聴覚野が反応する傾向が得られ、イメージングの反応強度は高くなった。より自然刺激に近いものの反応強度が低いと予想されるカロリック刺激でも、GCaMPマウスの反応強度の強さを利用すればPIVCを同定できると考えている。
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