研究課題
先天性難聴は新生児1,000人に1人に認められる比較的頻度の高い障害であり、その原因のうち約50~60%に遺伝子が関与することが示唆されている。現在までに難聴の原因として80種類以上の遺伝子が同定されており、原因遺伝子変異の種類により、難聴の程度、難聴の型、進行性などが異なっていることが知られている。興味深いこととして、遺伝性難聴の原因遺伝子の中には、特徴的な聴力型を示す原因遺伝子が知られている(WFS1遺伝子:低音障害型、TECTA遺伝子:皿型、KCNQ4遺伝子:高音障害型)。これらの遺伝子変異による難聴は、特定の高さの音刺激の受容が障害されることにより生じると考えられるため、蝸牛の基底回転、中回転、頂回転と回転別に異なる遺伝子が発現して聴覚機能を維持していることが示唆される。平成29年度は、マウス内耳における時空間的遺伝子発現ダイナミクスを明らかにすることを目的に8週齢の近交系マウス(C57BL/6)より蝸牛膜迷路を摘出し、得られた蝸牛膜迷路を頂回転、中回転、基底回転の回転別に分割し、Total RNAの抽出を行った。得られたRNAの品質チェックを行ったのちに、次世代シークエンサーを用いてRNA解析を行い、回転別の遺伝子発現パターンおよびAlternative Splicingに関して詳細に検討を行った。その結果、回転別に特徴的な発現を示す遺伝子、および回転別に異なるalternative splicing variantを有する遺伝子群を見いだすことができた。現在、これら見出された遺伝子の発現量の確認を定量的PCR法により実施中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、マウス内耳の回転別にRAN抽出を行い次世代シークエンス解析をおこなうことができた。
現在までに難聴の原因遺伝子として知られる遺伝子の多くは有毛細胞に特異的に発現が認められる遺伝子であることより、平成29年度までの研究により有毛細胞特異的に発現することが明らかになった遺伝子は有力な新規原因遺伝子の候補であると言える。そこで、平成30年度以降は、有毛細胞に特異的に発現の認められる遺伝子に関して、信州大学医学部耳鼻咽喉科の管理する日本人難聴DNAデータベース(6500例)のうち、既知原因遺伝子のスクリーニング検査を実施しても原因確定に至らなかった症例に対して、候補遺伝子解析を行い、新規難聴原因遺伝子を明らかにする。また、見出された変異に関しては、臨床像に関して詳細に検討を行う。また、それら症例の難聴の原因変異を明らかにし、その臨床像を明らかにすることにより、聴覚維持のメカニズムの理解、難聴発症のメカニズムを解明する上でも非常に重要な基盤情報が得られ難聴発症のメカニズムや推定病態から予測される臨床像との関連に関して検討を行うことが可能となると考えられる。
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