研究課題/領域番号 |
17K11324
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
中西 啓 浜松医科大学, 医学部, 助教 (20444359)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 免疫応答 / 蝸牛 / 難聴 |
研究実績の概要 |
我々は非症候群性遺伝性難聴家系(DFNA34)の連鎖解析を行い、本家系の難聴がNLRP3遺伝子変異により生じていることを明らかにした。現在までに、NLRP3は全身性自己炎症性疾患であるクリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)の原因遺伝子であることが知られている。CAPS患者では、NLRP3の機能獲得型変異により自然免疫担当細胞から恒常的にInterleukin-1β(IL-1β)が分泌されるために全身性炎症が生じると考えられている。DFNA34患者では難聴以外に臨床症状が認められないため、機能獲得型変異により全身性炎症が生じ、その一部症状として蝸牛内炎症が生じたとは考えにくい。そこで我々は、蝸牛内に組織マクロファージが存在し、その細胞からIL-1βが分泌されたために蝸牛内炎症が惹起され非症候群性難聴が生じたという仮説を立てた。本研究では、この仮説を、マウスを用いて証明するとともに、蝸牛内炎症がヒトの難聴疾患と関連しているかについて検討することが目的である。 H29年度に、野生型マウスを用いて、マウス蝸牛でNLRP3インフラマソームが活性化されることを明らかにした。H30年度は、マウス蝸牛においてNLRP3インフラマソームが活性化される細胞を同定することを目指した。野生型マウスより蝸牛組織を分離・培養し、NLRP3インフラマソームを活性化させる最初のステップを誘導するために、リポ多糖を加えて6~24時間培養した。NLRP3に対する特異性の高い抗体はないため、IL-1βに対する抗体で蝸牛組織を染色した。その結果、一部の組織マクロファージがIL-1βに対する抗体で染色されたため、マウス蝸牛でNLRP3インフラマソームが活性化される細胞は組織マクロファージであると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H29年度に、野生型マウスを用いて、マウス蝸牛でNLRP3インフラマソームが活性化されることを明らかにした。H30年度は、マウス蝸牛においてNLRP3インフラマソームが活性化される細胞は、組織マクロファージであることを明らかにした。以下に詳細を記載する。 ①野生型マウス蝸牛でNLRP3インフラマソームが活性化される NLRP3インフラマソームは、細菌やウィルスなどの病原体により活性化され、IL-1βの分泌を惹起することにより炎症反応を引き起こす。NLRP3インフラマソームの活性化は厳重にコントロールされており、活性化には2段階のステップを誘導することが必要である。この2段階のステップによりIL-1βが分泌される現象は、NLRP3インフラマソームに特異的であるため、目的とする細胞内でNLRP3インフラマソームが活性化されるか評価するために応用されている。本研究では、野生型マウスより蝸牛組織を分離・培養し、最初のステップを誘導するためにリポ多糖(LPS)を加えて6~24時間培養し、さらに次のステップを誘導するためにATPを加えて1時間培養して、培養液中のIL-1βの濃度を測定した(LPS+ATP)。その結果、LPS+ATPを加えた群では、何も加えなかった群やLPSのみ加えた群と比較して、有意に培養液中のIL-1β濃度が高かった。 ②マウス蝸牛でNLRP3インフラマソームが活性化される細胞は組織マクロファージである 蝸牛内においてNLRP3インフラマソームが活性化される細胞を同定するため、野生型マウスより蝸牛組織を分離・培養し、最初のステップを誘導するためにLPSを加えて6~24時間培養した。NLRP3に対する特異性の高い抗体はないため、IL-1βに対する抗体で蝸牛組織を染色した。その結果、一部の組織マクロファージがIL-1βに対する抗体で染色された。
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今後の研究の推進方策 |
蝸牛内炎症により難聴が生じるか評価するために、DFNA34家系で同定された変異を用いて新たにNLRP3モデルマウスを作製する。ノックインマウスの作成は、CRISPR/Cas9 法によるゲノム編集技術を用いて行う。オフターゲット作用により本来期待していない部位に変異が生じる可能性があるので、野生型マウスと数世代交配してオフターゲット変異を持たないマウスを選別する。作製したNLRP3ノックインマウスにおいて、体重、皮疹、生存期間を観察するとともに、全血球計算や血液中のサイトカイン濃度を測定する。また、聴覚機能についても評価する。それぞれについて、詳細を以下に記載する。 ①体重、皮疹、生存期間の観察について 作製したNLRP3ノックインマウスにおける全身性炎症や成長障害を評価するために、体重、皮疹、生存期間を観察し、野生型マウスと比較する。なお、皮疹の評価は、視診および皮膚組織切片を観察して評価する。 ②全血球計算や血液中のサイトカイン濃度の測定について 全身性炎症が惹起されているか、惹起されているとしたらどの程度の炎症がいつ頃から惹起されているのか評価するために、全血球計算や血液中のサイトカイン濃度を測定する。全血球計算では、赤血球数、白血球数、白血球分画、血小板数を自動血球計算装置により測定する。また血液中のサイトカインに関しては、IL-1β、IL-6、TNF-α濃度をELISA 法により測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
NLRP3ノックインマウス作製費用の支払いが、令和元年度になったため次年度使用額が生じた。令和元年度中に、NLRP3ノックインマウス作製費用として、次年度使用額を利用する予定である。
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