研究課題
本研究ではまず健聴者を対象として光トポグラフィー(fNIRS)を用いて聴覚関連大脳新皮質の賦活化の左右差を検出できるかを検証した。7~9音節の単語音声刺激を両耳に提示し、その際の聴覚野の賦活化の左右差を検証すると、左賦活化振幅/右賦活化振幅=1.3と左優位の賦活化を示す結果を得た。過去のMRIを用いた研究結果でも言語音声刺激で左優位の聴覚野の賦活化を認めることから、少なくとも今回対象とした健聴者ではfNIRSが脳機能の左右差の評価に有用であることが示唆された。しかし、人工内耳装用者を対象として同様の研究を行ったところ、個人差が極めて大きく有意な左右差を検出できなかった。原因を検証すると人工内耳装用者群は、成人男性で側頭部の皮膚や筋肉が厚い被験者が多く、特にこれらの被験者では賦活化に関連したfNIRS信号の振幅が極めて小さいことから、特に被験者が成人の場合は被験者の脳表から皮膚までの性状がfNIRSの結果に大きな影響を及ぼすと考えられた。本研究では技術的にfNIRSを用いた評価が困難であったときの代替案として多チャンネル脳波計を用いて聴覚関連脳機能の左右差の検出も試みた。健聴者では純音刺激と語音刺激それぞれで励起される聴覚野のダイポールモーメントに注目すると、N1波のダイポールモーメントは左聴覚野のみで純音刺激よりも語音刺激で大きい結果となった。しかし、人工内耳装用者では片側の人工内耳から発声するアーチファクトのためにダイポールモーメントの左右差を正確に比較することが困難であった。打開策として、聴視覚統合に注目し、マガーク効果タスク時の音声刺激直前の視覚刺激のみで引き起こされる視覚野と聴覚野の脳波で計測した同期的活動に注目すると、健聴者ではマガーク効果の有無と、視覚野と聴覚野の同期的活動に相関があることを発見した。これは同領域では初の発見で有り、今後本研究手法を人工内耳装用者に応用して研究を進める予定である。
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