研究実績の概要 |
下半身に陽圧を加え、浮力により下肢荷重を減少させて歩行運動が容易に行える下半身陽圧負荷(lower body positive pressure, LBPP)歩行補助装置(以下、LBPP歩行装置とする)を開発した。本研究ではLBPP歩行装置を用い、歩行運動を前庭障害症例、健康成人に行い、歩行運動機能、循環・自律神経機能に及ぼす影響を検討した。本研究の目的はLBPP歩行装置を前庭リハビリテーションに応用することである。 LBPP負荷中、下肢への荷重が低下し、体重が軽くなった感覚が生じる。一方、LBPP負荷を解除すると、体重が普段より重くなった感覚が起こる。LBPP負荷の循環・自律神経機能に及ぼす影響は健常者では心拍数の低下であり従来と同じ結果であったが、前庭障害例も同じ傾向がみられた。正常例で歩行解析を行うと、LBPP負荷のない場合は歩幅の乱れは開始直後が大きく、時間を追ってトレッドミルの速度に応じた歩幅に収れんし、歩幅の乱れは少なくなるが、LBPP負荷例では歩幅の乱れは大きくなり、乱れが継続する。またLBPP負荷例では正常例に比べ歩幅の平均値は大きくなる例が多いが、むしろ歩幅が小さくなる例もあった。LBPP負荷歩行前後でRomberg率、重心軌跡の総移動距離(TL)、外周面積(OA)等の検討を行った。健常例ではRomberg率が高くなる傾向があり、視覚入力に対する重みづけが高まる可能性が示唆された。その他のパラメータでLBPP負荷後に変化があったのは閉眼でのTL/OAで、値が小さくなった。これはLBPP負荷が姿勢制御における高周波数動揺成分に影響を及ぼす可能性を示唆する。前庭障害例ではRomberg率が変化しなかったが、理由は不明である。使用者で歩行障害が改善した例があり,前庭リハビリテーション法として、研究をすすめていきたい。
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