中耳炎は小児の難聴の最も多い原因疾患である。特に言語習得期の小児においては、難聴により言語習得が不十分となり、言語発達が遅延する可能性がある。また、難聴を持つ高齢者は認知症の罹患率が高く、また、その進行も早いことが明らかとなっている。これらの社会的背景から、中耳炎の病態解明と適切な治療法の開発は、必要性が高い。本研究では、野生型マウスの中耳腔にエンドトキシンを経鼓膜投与することによって実験的中耳炎を発症させ、化膿性中耳炎のモデルマウスとして用いた。対照群のマウスの中耳腔には生理食塩水を注入し、コントロールとした。エンドトキシンまたは生理食塩水の鼓室内投与後、24時間経過後にマウス中耳腔を生理食塩水で洗浄し、回収された洗浄液をサンプルとして用いた。その結果、エンドトキシン投与群においては、インターロイキン(IL)-1をはじめとして、多数のサイトカインやケモカインの産生が亢進していることが明らかとなった。炎症因子として近年重要視されているインフラマソームに注目して同様の検討を行ったところ、エンドトキシン投与群においては、NLRP3インフラマソームが強く発現していることが示された。マクロファージ遊走阻止因子ノックアウトマウスにも同様にエンドトキシンを投与し、実験的中耳炎を発症させたところ、NLRP3インフラマソームの構成因子タンパクの産生が低下していた。また、組織学的検討において、マクロ ファージ遊走阻止因子ノックアウトマウスは、エンドトキシンを投与した際の炎症所見が軽度であることが明らかとなった。
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