難病のひとつであるメニエール病の病態は、内耳の内リンパが過剰である内リンパ水腫であるが、健常では内リンパ水腫が生じないように内リンパ系が調節されている。内リンパは蝸牛の血管条で産生され、内リンパ嚢で吸収されている。しかし、実際に内リンパ嚢がどのように調節されているか、その全貌はいまだ明らかになっていない。これまでに、臨床研究としてアルドステロン血中濃度上昇作用のある減塩治療をメニエール病患者に行うと血中アルドステロン濃度が上昇するとともに聴力が改善した。また、内リンパ嚢にはアルドステロン受容体が存在し、アルドステロンにより活性化されるイオン輸送体である、Naポンプ、epithelial Na channel、サイアザイド感受性Na-Cl共輸送体等が内リンパ嚢に発現していることを確認している。 そこで、減塩食モデル、高塩食モデルラットを用い、内リンパ嚢におけるこれらのイオン輸送体の発現量の違いを調べた。分子生物学的アプローチとして、laser capture microdissection法を用いてラット内リンパ嚢上皮細胞からmRNAを抽出し、上記イオン輸送体の発現量をリアルタイムPCRで調べた。内リンパ嚢上皮全体(近位部、中間部、遠位部)では、減塩食ラットでは、Naポンプ、epithelial Na channel、サイアザイド感受性Na-Cl共輸送体すべての発現が多く、epithelial Na channelは有意に多かった。さらに内リンパ嚢の部位別に調べると、減塩食ラットの中間部では、Naポンプ、epithelial Na channel、サイアザイド感受性Na-Cl共輸送体すべての発現が有意に多かった。減塩食では、内リンパ嚢、特に中間部においてNa輸送が活性化され、内リンパ吸収が活性化されている可能性が示唆された。
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