難治性めまいの1つであるメニエール病の本態は内リンパ水腫であり、これには内耳の水代謝異常が深く関与している。アクアポリン11(AQP11) は2000年に発見された水チャネルで、腎臓のみならず精巣、肝臓、脳、小腸に存在する。われわれの先行研究から内耳にも発現することが明らかになっているが、その機能については明かでない。本研究では、まず、AQP11の内耳における機能を明らかにする目的で、APQ11ノックアウト(KO)マウスの聴覚と平衡機能について測定した。 その結果、AQP11KOマウスの聴性脳幹反応(ABR)は4 kHzでは野生型マウスと比べて約13 dB閾値が高かったが(p<0.05)、8 kHz以上では有意差はなかった。光学顕微鏡による形態学的研究においても内リンパ水腫の所見はなく、野生型マウスと比べて血管条やコルチ器に有意な組織学的差異は認められなかった。前庭誘発筋電位(VEMP)を用いた平衡機能についても明らかな差異はなかった。 ABRの結果では、低音域のみでKOM群で有意に閾値が高かった。しかし、クリック音やトーンバーストの高音域では差はなかった。これは低音域の難聴を示唆する所見である。一方、形態学的検討では内リンパ水腫の所見は認められなかった。臨床例では造影MRIの内耳所見から、臨床症状の発現に先行して内リンパ水腫が形成されていることが報告されている。機能的検査と組織学的検討の差異については、さらなる検討が必要である。 本研究の結果からは、AQP11KOマウスでメニエール病と同様に低音域の難聴をきたしている可能性はあると考えられるが、組織学的な裏付けは得られなかった。AQP11は通常の内耳の状態では水代謝には大きな影響を及ぼしていないと推測されるが、今後さらに検討を加える必要がある。
|