研究実績の概要 |
ミトコンドリア(mt)は全身のエネルギー代謝に重要な働きをしている。mt機能異常は、細胞核DNA変異あるいはmtDNA変異によって起こり、好気呼吸やエネルギー代謝が障害され活性酸素(ROS)が生じることで細胞・組織が傷害されることが知られている(Chinney,2014 etc)。また、mt機能異常は、老人性難聴を含め感音難聴の発症に深く関連することが明らかになっているが、その詳細については不明な点が多い(Fujimoto, Oxid Med Cell Longev 2014)。 本研究においては、細胞核DNA変異によるmt機能異常に着目し検討を行う。細胞核DNAであるMTO1(Mitochondrial tRNA Translation Optimization 1)は、mtにおけるトランスファーRNA(mt-tRNA)をタウリン修飾(τm5)するために必須の遺伝子であり(Suzuki,2014)、MTO1が欠失するとmRNAのコドンの読み取り(翻訳)異常が生じ、mt機能異常が生じる。MTO1遺伝子をノックアウトしたES細胞を用いた研究においては、同細胞においてmt-tRNAのタウリン修飾が完全に消失し、mt電子伝達系の蛋白質合成および複合体活性が障害され、mtの膜電位が低下することが示されている(Wei, 2015)。以上の知見より、MTO1欠失マウスは、mt-tRNAにおけるタウリン修飾欠損により、翻訳異常が生じ、mt機能異常を呈する細胞核DNA変異によるmt機能異常モデルマウスとなり、MTO1遺伝子変異は非症候性難聴、アミノグリコシド誘発難聴に関連している可能性が示唆されている。MTO1欠失マウスは胎生致死であるため、当該年度は、MTO1 floxedマウスとPax2-creマウスを交配することによって、内耳特異的MTO1欠失マウスの作製を行った。
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