研究実績の概要 |
サリチル酸を人や動物に過剰投与すると急性耳鳴を生じることが知られている。サリチル酸過剰付加による影響は聴覚系の各神経核で異なることが報告された。サリチル酸過剰投与の影響は、末梢の蝸牛電位及び蝸牛神経核では周波数に非依存で一律に応答が減少した。下丘では低音域や中程度でほぼ無変化で高音域の減少が観察された。皮質では高周波を除き、低音域や中音域の応答が大きく増大することが報告された。 前年度と同様に、蛍光色素を用いた光学的測定法により音圧を45, 55, 65, 75 dBSPL、周波数を0.5, 1, 2, 4, 8, 16kHzの24種の純音刺激の時空間パターンを測定し、純音の時空間パターンにより周波数バンド活動領域を推定し、各周波数バンド領域の平均バンド応答を求めた。 上行FM音および下行FM音(変調速度1000, 500, 250 Hz/s, 音圧55dBSPL)を用いて、サリチル酸を付加後の平均バンド応答を解析した。上行FM刺激応答は、サリチル酸付加後0.5時間で、どの変調速度でも平均バンド応答は同期した一峰性応答を示し、そのピーク潜時は、変調速度に依存しなかった。下行FM音の場合は、16kバンド応答が減少し、低い変調速度刺激応答で遅延が顕著であった。 同じ実験を左右で音応答閾値が異なる難聴動物で平均バンド応答解析を行った。上行FM音の場合、各周波数バンド応答の潜時とピーク時間がほぼ同じで、低い変調速度刺激応答ではピークの時間幅が増加した。下行FM音の場合は、速い変調速度では一逢性の応答を示し、16kバンド応答の潜時が最も早く8k以下の周波数バンド応答が続いた。変調速度の遅くなると低い周波数バンドの応答が強くなり二逢性になった。サリチル酸付加で観察される遅い変調速度の応答遅延は、第一ピーク(高周波応答のピーク)が消失し、第二ピークが残ったものと推察される。
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