研究課題/領域番号 |
17K11350
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
金子 寛生 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 細胞核輸送ダイナミクスプロジェクト, 客員研究員 (10349946)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 耳科学 / 構造生物学 / 遺伝性難聴 / 分子発症メカニズム / バイオインフォマティックス |
研究実績の概要 |
国立病院機構東京医療センターと連携し、全国の病院から集まる様々な遺伝性難聴のデータを多角的に解析することにより、分子発症メカニズムを解明する研究を行った。センター側で解析した主にSNP情報と臨床データに基づき、疾患原因遺伝子と変異部位について、配列上で新規性の確認ができた遺伝子の解析を精力的に行った。 遺伝子は、TECTA, PDZD7, GJB2など多岐に渡る。ここでは、EDNRBに関する成果を中心に記載する。ワールデンブルグ症候群1型において、EDNRB 遺伝子のミスセンス変異 p.R319W ホモ接合体が新規に発見された。EDNRB (Endothelin receptor type B) は、7回膜貫通型のGPCRであり、Gα13との結合によって活性が制御されることがわかっている。R319W変異の意味を構造生物学的見地から探るため、活性型GPCR(β2アドレナリン受容体活性型)にG蛋白質(α,β,γ)が結合した結晶構造(PDB ID:3SN6)を用いて、活性型EDNRBにGα13(GTPやGDPを結合していない開いた状態)が結合した複合体モデルを構築した。このモデル構造を用いて観察したところ、次のことがわかった。1) Wild type_EDNRBにおけるArg319は、Gα13の静電ポテンシャル表面が負の部分と静電相互作用しているが、これが電気的に中性なTrpに変異するとGαとの相互作用が弱くなる。2)膜の外の溶媒に露出しているループ部位に存在しているアミノ酸が疎水性のTrpに変異すると、溶媒和エネルギーの著しい損失により、EDNRB自体の不安定化が起こる。これらにより、GPCRにリガンドが結合できたとしても、その後の3つのG蛋白質がうまく結合できず、細胞内へシグナルが十分に伝達されなくなることが変異難聴を引き起こす分子疾患メカニズムの1つであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度であることから、できるだけ多くの遺伝子について多様な変異の解析を行うことを心がけた。多くの臨床例に対応できるよう可能な限り網羅的な解析を行うことは、データの蓄積と遺伝性難聴に関する知識のボトムアップにつながるという意味で重要度が高いと考える。初年度の「研究実施計画」の内容は、遺伝性難聴を中心とした様々な分子発症メカニズムを解明することであった。複数の遺伝子とその変異について、遺伝性難聴との関連性を解明できたという点から、当初の計画以上のスピードで進展したと言える。変異と疾患の関係について、研究の経験度をさらに高めていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、さらに多種多様な遺伝性難聴を中心とした疾患の原因遺伝子とその変異について解析を行い、臨床応用に必要な情報の蓄積を行っていく予定である。ただ、網羅的かつ多角的解析の追求と、遺伝子疾患の詳細な分子メカニズムの解明は、互いに相容れない性質のものであることに注意して研究を進めていく必要があるだろう。あまりに網羅歴な解析に徹するとその変異の意味や疾患のメカニズムを調べることができなくなり、臨床への応用や創薬研究に十分につながらなくなる。一方その逆も解析例の低下を招きトランスレーショナルリサーチにつながりにくくなる。両者の均衡がとれた研究の進め方が望まれるが、その遂行はなかなか難しい課題と考える。そこで来年度は、連携研究者に生化学的な実験を積極的に行ってもらい、それらのデータと研究代表者が行う計算構造生物学的な解析の結果に基づき、研究対象の疾患を選別していく予定である。特定の変異疾患について、新規な診断および治療法の開発につながる研究を進めていくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 当初、初年度にApple Mac Proを購入することを予定していたが、純正5Kモニターを搭載し、高性能CPU・GPUを積んだiMac Proが12月に発売されることが発表された。高精細な分子表示とシミュレーション計算には、こちらの方が研究に向いていると判断し、今年度の無理な購入を控えた。また、11月-12月に体調を崩したため、購入について十分な検討と発注をする時間を持つことができなかった。人件費、謝金については、当初予定していたポスドクの確保が難しくなったことと、代表者単独で解析を済ませることができたことにより使用しなかった。 使用計画 初年度研究は、前の科研費(29年3月終了)で取得したワークステーションなどを有効に使用し補完することで完遂できたが、次年度はさらなる計算資源を必要とするためiMac Proの購入を計画している。本研究に最適かつ優秀な研究協力者が確保できたので、次年度から、積極的に人件費、謝金を使用し、データ解析やプログラム作成を精力的に進めていくことを計画している。
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備考 |
平成29年度科研費審査委員表彰
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