研究実績の概要 |
昨年に引き続き、国立病院機構東京医療センターと連携し、全国の病院から集まる様々な遺伝性難聴のデータ解析を精力的に行った。対象遺伝子はこれまで行ってきた解析を含めると、EDNRB, TECTA, PDZD7, GJB2, OTOF, OPA1, NOG, KCNQ4 など多岐にわたる。今年度は、この中でも遺伝性難聴において特に重要度が高いGJB2について行った変異に関する解析結果を中心に述べる。 GJB2遺伝子は、connexin 26 (Cx26)として知られるGap junction beta-2 protein (GJB2) をコードする遺伝子であり、内耳のカリウムイオンの移動に重要な役割を果たしていると考えられている。これまでGJB2における様々な変異の重要性は報告されてきたが、構造生物学的見地からの議論はほとんどされていない。そこで、今回、我々は、GJB2遺伝子の変異が難聴にもたらす影響を分子論的な見地から解明し、診断法および治療薬の開発につなげることを目的として研究を行った。ここでは、GJB2の頻出変異としてよく知られるp.R143W変異を例にとり、連携研究者が得たもう片方のアレルの変異タイプを持つ難聴患者の聴力パターンデータを比較分析しながら考察を行った。 構造の観察やモデル計算の結果から、Arg143がTrpに変異することにより、Asn206およびSer139との水素結合が消失し、Tyr136とのπ-カチオン相互作用が消滅することが示唆された。特に、Asn206との水素結合は、膜貫通領域におけるhelix-3とhelix-4の安定化に大きく寄与していると考えられる。このため、R143W変異がヘリックス相互作用の不安定化を介し、Gap junction構造全体の揺らぎと歪みがもたらすことにより、難聴を引き起こしたものと結論した。
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