昨年に引き続き、国立病院機構東京医療センターと連携し、connexin 26として知られるGap junction beta-2 proteinをコードする遺伝子JGB2の変異に関する研究を進めた。本遺伝子の変異は、難聴における最も重要なターゲットの一つであることから、さらに深い解析を行う必要があると判断した。 昨年、p.R143W変異について、構造生物学的な解析と計算化学的手法により予測した変異モデルから、Arg143がTrpに変異することにより、Asn206との水素結合が消失することを明らかにした。今回、その結合相手となるAsn206の変異について調べたところ、やはり重篤な難聴をもたらすことが明らかとなり、この水素結合の重要性を確認することができた。また、p.[R143W];[R143W]やGJB2遺伝子の対立アレルがフレームシフトあるいはナンセンス変異を有する患者では重度の難聴を示すが、[V37I];[R143W]の複合ヘテロ変異の患者では重度難聴に至らないことがわかった。そこで、次に、V37I変異について調べたところ、イオンポアを形成する重要な場所に位置するにも関わらず、多少側鎖体積が増えるだけで、周囲との相互作用においては(疎水相互作用も含め)大きな変化がもたらされないことが強く示唆された。一方、R143はイオンポアから16.50 Åも離れていた。これらのことから、変異の場所だけでなく、その変異の持つ意味についても深く考察する必要があることが示された。また、R143W変異は、JGB2蛋白質の構造を不安定化させ、その6量体からなるヘミチャネル(connexon)、さらにそれから構成されるギャップ結合の構造を歪めることにより、イオン透過能に重大な影響を与えるが、その遺伝様式はドミナントネガティブな要素を有さない常染色体劣性である可能性が高いという結論に至った。
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