本年度も嗅粘膜除去マウスの作製を行い、本実験研究の基礎を確立することに努めた。 嗅細胞が特異的に青色染色されて可視可能な遺伝子組換えマウス・OMP-tau-lacZマウスを用いて、2種類(手術的、化学的)の嗅粘膜除去マウスを作製した。 手術的嗅粘膜除去マウスは、マウスにペントバルビタールを腹腔内注射して全身麻酔し、固定器で固定した。鼻骨を外し、嗅粘膜を露出させ、嗅粘膜を剥離して吸引除去した。また前頭開頭も行い、嗅球と篩板を露出させ、テフロンカッターを嗅球と篩板の間に挿入して嗅球を温存しながら嗅神経も切断し、完全な嗅覚障害モデルマウスにした。手術後は閉頭し、動物を覚醒させた。化学的嗅粘膜除去マウスは、メチマゾールを腹腔内投与して嗅粘膜を脱落させることで作製した。 どちらのモデルマウスも、組織学的評価だけではなく、行動学的嗅覚検査実験も行い、介入前には正常であった嗅覚機能が介入後に嗅覚脱失状態となっていることを確認した。行動学的嗅覚検査実験は、あらかじめマウスに0.01%ナラマイシン(シクロヘキサミド)水溶液を用いて条件付けの嫌悪学習を行った。次いで、嫌悪学習に成功したマウスに対して、上記介入後に忌避行動をしなくなるのを確認することで嗅覚脱失状態と判定した。 次に、移植ドナー用のOMP-GFPマウスから嗅粘膜を採取して、手術的嗅粘膜除去マウスと化学的嗅粘膜除去マウスにそれぞれ移植して生着状態を組織学的、行動学的に評価を施行した。その結果、一部のみ生着細胞が確認できた。行動学的評価で、嗅覚検査を施行したが、これで嗅覚機能が回復した例は認められなかった。 以上の結果から、嗅粘膜移植は消炎治療を併用することで過去の報告よりも生着性を向上することは可能と考えられるが、顕著な向上ではなく、また移植嗅細胞が嗅覚機能までもを発揮するにはさらなる方法の開発が必要であると考えられた。
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