研究課題/領域番号 |
17K11362
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
濱島 有喜 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (30343403)
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研究分担者 |
江崎 伸一 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (20620983)
勝見 さち代 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (60625565)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 顔面神経麻痺 / 組織幹細胞 / 嗅裂 |
研究実績の概要 |
幹細胞が分化して組織を形成するが、一旦分化した組織の中にも一定数の幹細胞が存在することがわかってきた。我々は鼻粘膜より分離される幹細胞に着目し、神経再生を促すかどうか研究を行ってきた。嗅裂の粘膜より分離された細胞は神経幹細胞様の性質を示し、PCRにて神経幹細胞マーカーを発現したため、嗅粘膜由来の組織幹細胞であると考えられた。本研究では顔面神経を切断して、より高度な顔面神経障害モデルマウスの治療に応用することを目的とした。 まずはマウス顔面神経麻痺モデルを確立した。マウス神経を切断すると完全麻痺となるが、手術時間、手術手技がまだ安定していなかったため、容易な圧挫麻痺を作成することとした。マウス顔面神経を耳下腺下で圧挫麻痺したところ、術後、顔面神経の完全麻痺が認められ、その後顔面麻痺は14日程度で自然に回復した。次に組織由来多能幹細胞を採取した。マウス嗅粘膜組織由来幹細胞を、胎児Balc/cマウスの嗅粘膜から採取し、成長因子を添加した培養液で培養した。培養用dishの底につかず浮遊する細胞を培養したところ、浮遊細胞は継代が可能であり、neurosphereを形成した。また、PCRで神経幹細胞由来の遺伝子発現を検討し、神経幹細胞と同様の性質を示し、嗅粘膜組織由来幹細胞であると考えた。 側頭骨手術において、顔面神経を切断しなければならない場面は多くないが、本治療法で顔面神経の再生が促進されれば、臨床応用できることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初に、顔面神経麻痺モデルマウスを作成した。マウスの顔面神経を解剖し、走行を確認した。次に顔面神経本幹を耳下腺下層で圧挫して顔面神経圧挫麻痺モデルマウスを作成した。手術後は完全麻痺を認め、その後麻痺は徐々に軽快し、14日程度で完治するモデルが完成した。ついで、マウス顔面神経切断吻合マウスを作成した。マウスの顔面神経本幹を耳下腺下層で切断し、顔面神経麻痺モデルマウスを作成した。手術後は完全麻痺を認め、その後麻痺は徐々に軽快した。切断した顔面神経を吻合する際に時間を要すること、手術手技が安定しないことにより、以降の実験では顔面神経圧挫麻痺モデルマウスを用いて実験を行うこととした。 次に、組織由来多能幹細胞を採取、分離した。マウス嗅粘膜組織由来幹細胞を、胎児Balc/cマウス (P0) の嗅粘膜から採取し、成長因子を添加した培養液で培養した。培養用dishの底につく細胞と浮遊する細胞をわけて培養を行ったところ、浮遊細胞は継代が可能であり、細胞塊 (neurosphere) を形成した。細胞塊は単細胞にしても再度細胞塊を形成し、神経幹細胞と同様の形態を示した。また、PCRで神経幹細胞由来の遺伝子発現を検討したところ、Nestin、Sox-2等を発現し、神経幹細胞と同様の性質を示し、嗅粘膜組織由来幹細胞であると考えた。その後グリア細胞由来神経成長因子 (GDNF)、脳由来神経成長因子 (BDNF)、レチノイン酸、ビタミンB12等と共に共培養したが、幹細胞は形態学的には変化を示さなかった。
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今後の研究の推進方策 |
マウス顔面神経麻痺モデルについては、今後顔面神経圧挫麻痺モデルマウスを用いることとした。しかし、マウス顔面神経切断吻合マウスが利用できれば、完治困難な顔面神経麻痺モデルマウスになると考えられ、切断吻合モデルマウスの確立を試みたいと考えている。また、さらに、モルモットにおける報告では、側頭骨内の顔面神経を圧挫した場合は側頭骨外で圧挫した場合と比べて神経損傷の程度がひどくなり、再生過程で過誤支配がおこることが報告されている (Yamada et al, Laryngoscope. 2010 May; 120 (5): 1022-7.)。こちらについてもマウスモデルを用いて、中耳骨包内の顔面神経麻痺を露出し、圧挫することにより顔面神経麻痺モデルマウスが作成可能か検討を行う予定である。 顔面神経麻痺モデルマウスの再生における研究については、分化させた嗅神経由来幹細胞を用いる予定であった。しかし臨床応用を考えると、嗅粘膜の採取は容易ではあるが採取により嗅覚障害を引き起こす可能性もある。さらに採取可能な幹細胞の候補として骨髄由来幹細胞が挙げられた。骨髄由来幹細胞は骨髄穿刺により容易に採取可能な細胞である。そこで、マウス大腿骨より骨髄細胞を採取し、培養することにより幹細胞を採取し、分離培養できるか検討する。また、顔面神経麻痺モデルマウスの損傷した顔面神経の付近に投与し、顔面神経麻痺の治癒を促すかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調であるが、マウスの購入実績が予定より少なかったため残金が生じた。次年度のマウス購入費用にあてる予定である。
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