研究課題/領域番号 |
17K11365
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸 順天堂大学, 医学部, 准教授 (80365577)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | PVDFフィルム / ②内視鏡下鼻・副鼻腔手術 / 副損傷 / マイクロデブリッター |
研究実績の概要 |
内視鏡下副鼻腔手術(以下ESS)は慢性副鼻腔炎を代表とする鼻・副鼻腔疾患の標準的治療として位置づけられている。しかし、様々な医原性副損傷を来すことが報告されている。これら副損傷で最も多いのは、眼窩副損傷であり、とりわけ眼窩壁損傷が最多である。眼窩壁損傷を来した場合でも、眼窩侵入などの軽度障害であれば、眼球運動障害を引き起こす可能性は低いが、マイクロデブリッターのようなpowered instrumentを使用して副損傷が生じた場合には、外眼筋損傷などの高度障害が引き起こされることが予想される。ESS施行時の眼窩損傷リスク検知システムの作成を最終目標とし、リスク検知システム作成のpreliminary studyとして、ESSの施行時に、PVDFフィルムを使用し眼球の微小振動を計測し解析する。【目的】PVDFフィルムによる眼球・眼窩振動測定が危険察知の指標となり得るか検討する。【方法】ESS時にPVDFフィルムを患者の両目の瞼の上に乗せ固定する。フィルムに加わる振動によって生じる電荷信号を測定しFFT解析を行った。MDが眼窩内側壁付近にある時間帯のデーターを「要注意状態」と定義し,中鼻甲介方向の内側篩骨洞でMDを使用している時間帯は「安全状態」であると定義し、それぞれに対しMDがもたらす微小振動に注目し、振幅値の左右比を解析した。【結果】13件の実際の手術症例、2件の献体症例(倫理委員会で承認済み)で計測した振動波形に対して検討した。生体では160Hzで安全状態より要注意状態の振幅比が大きい症例が11症例見られ、80Hzでは5例であった。献体2件では殆どの周波数で要注意状態の方が振幅比が大きかった。【考察】症例ごとに振幅比の傾向に違いがあるが,80 Hz、160 Hz帯域の振幅比に注目することで要注意状態と安全状態を判別できる可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 PVDFフィルムを使用し、ESS時の眼球の微小振動を測定した。手術後に手術中の内視鏡動画とそれに伴う振動波形を術者と測定者が確認し合い分析した。MD操作位置と左右のPVDFフィルムとの距離が異なるため,左右のフィルムから得られる出力値には差が生じることが推測される.そこで,要注意状態と安全状態での計測結果の比較を行うために,各症例で計測した振動波形に対して,80 Hzと160 Hz帯域を中心に0.1 sごとの最大振幅の時間変化を求めた.削除側と対側の最大振幅から振幅比(削除側振幅/対側振幅)の時間変化を求め,要注意状態および安全状態の各時間帯における振幅比の平均値を症例毎に求めた。13件の実際の手術症例、2件の献体症例(倫理委員会で承認済み)で計測した振動波形に対して検討した。生体では160Hzで安全状態より要注意状態の振幅比が大きい症例が11症例見られ、80Hzでは5例であった。献体2件では殆どの周波数(80、160、320、400Hz)で要注意状態の方が振幅比が大きかった。更に献体では眼窩内側壁内へ侵入した場合の測定も可能であったが、どの注目した周波数においても要注意状態の方が振幅比が大きかった。これらの結果から考察すると症例ごとに振幅比の傾向に違いがあるが,160 Hz帯域の振幅比に注目することで要注意状態と安全状態を判別できる可能性が示唆される。しかし、以前から課題としている手術中にリアルタイムに術者に伝える機能の開発が進まない事、適切なPVDFフィルムの形状開発の遅延によって進捗状況としてはやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
測定の精度・安定性の確保が第一と考える。 ①眼窩の形状によりPVDFフィルムの装着不備で安定した測定ができない症例があるため、同じPVDFフィルムでも弯曲の形状に対して安定した測定を行えるような形状の物を使用することを試行していく。FDT-PVDFフィルムは,長方形のピエゾセンサ部からオフセットをとって柔軟性のある回路材であるピエゾポリマーテール(柔軟性のあるリード線)が延びており,出力先に対してBECコネクタによって接続される.FDT-PVDFフィルムを用いて眼窩の弯曲した面をモデル化した水風船と,人体ノイズの影響を確認するため前腕で計測したところ、計測は可能であったため期待が持てたが、今のところ実症例では適切な計測が困難である。今後はメーカーに確認し、オーダーメードによるフィルム作成を検討していく。 ②手術中にリアルタイムに内視鏡画面と解析画面がリンクできるようなシステムの構築が本研究には不可欠である。電気通信大学に依頼して同システムが実現可能か検討してもらっており、技術的には可能と返答を得ているので推進していく。 ③症例を積算しデーターを蓄積することにより、より正確な評価基準を構築していく。特に、生体で眼窩内側壁を切除する症例での振動測定を行えると信憑性が高まる。 ④適切な分析方法の検討。現在あるデーターの洗い直しを行い、レトロスペクティブにも分析法の妥当性を検討する。以上を今後の推進方策としていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
PVDFフィルムの適切なフィルム形状を満たす既製品は存在しないため、各メーカーに確認しオーダーメードで作成する事が必要となっていく。またリアルタイムに警告を鳴らす機材についても電気通信大学の担当者と相談し各種機材やソフトを購入していかなくてはならない。また、論文化を早期に実現するため、各学会に参加して本臨床研究に対する意見を頂き、考察に生かしていく予定である。
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