研究実績の概要 |
がん微小環境において、癌関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts: CAFs)は癌細胞の生存や増殖をサポートする重要な細胞であり、CAFsを標的とした治療戦略を考えるうえで、癌細胞と共通の標的分子であれば、より効果的な腫瘍抑制が期待できる。これまでに、次世代シーケンサーを用いた解析で正常線維芽細胞に比べてCAFsにおいて発現が亢進している13のがん免疫関連遺伝子を同定し、この中でAKT3に絞って研究を進めてきた。昨年度までに頭頸部癌組織標本を用いて癌細胞におけるAKT3の発現を免疫組織化学法で検討した。またShRNAによるAKT3遺伝子ノックダウンによる癌細胞の機能変化を調べた。今年度は、CAFsにおけるAKT3の役割について検討を行った。免疫組織化学法による検討では、CAFsの浸潤が多い症例ほど、AKT3陽性率は高かった。またAKT3発現を認める症例では、T細胞やマクロファージの浸潤が有意に高かった。次にin vitroにおいてCAFsのAKT3遺伝子をノックダウンさせ、どのような機能変化が生じるか解析した。癌細胞と同様にShRNAによってCAFsのAKT3をノックダウンした。CAFsは、頭頸部扁平上皮癌の手術検体から継代したものを使用した。CAFsのAKT3をノックダウンすることで、CAFsはアポトーシスを起こすことがわかった。さらに、IL-1β, IL-6, IL-8, TGF-βのサイトカイン遺伝子発現が減少した。またPD-L1やPD-L2といった免疫抑制分子の遺伝子発現も減少したことより、AKT3を抑制することでがん微小環境の改善が期待できることが示唆された。またCAFsのマーカーであるα-SMAの発現も低下しており、間葉系細胞の性質も失われていると思われた。
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