当研究の課題は、大声の産生が呼気努力と声門抵抗のいずれに依存するのかを客観的に判別する手法を開発し、健常人と嗄声を有する声帯結節患者間の大声発声時の喉頭・呼気調節の様式の違いを明らかにすることである。3年間で次の実績が得られた。 (1) 健常人に、通常母音/e/を発声しながら音の大きさをゆっくり徐々に大きくしていく母音クレシェンドタスク(VCT)とハミングをを行いながら音の大きさを大きくしていくハミングクレシェンドタスク(HCT)を行わせ、その結果、最大音圧レベルはVCTよりHCTで低かった。VCTにより、47%の対象者で声帯内転過剰に起因する急速な音圧レベルの増大が生じたが、HCTでは全例で認められなかった。また両タスク時に音圧レベルの増強に伴って声門上部圧迫が増強したが、その増強はHCTの方が弱かった。以上より、ハミングは、大声発声時の喉頭抵抗増大を抑制する効果があることが示され、両タスク間の最大音圧レベルの差は口の大きさの違いのためと考えられた(論文発表済み)。 (2)口の大きさに依存しない声の強さの評価法の開発のため、加速度計を頸部皮膚に接着固定させ、その信号のエネルギー量を解析した(皮膚加速度レベル)。母音/a/および/u/の発声間、母音/e:/およびハミング/m/の発声間で、皮膚加速度レベルは差を示さなかった。また両レベル間の相関性には個人差が認められ、個人間比較が困難と考えられた(論文投稿中)。 (3)発声時の呼気努力の定量化のためにマノメトリーを使用し、VCTおよびHCTの両方で皮膚加速度レベルの増大とともに特に胃内圧が徐々に増大した。またHCTの方が最大胃内圧が有意に大きかったことから、呼気努力への依存性が大きいことが明らかとなった(論文執筆中)。 (4)発声の経済性(皮膚加速度レベル/声帯接触率比、皮膚加速度レベル/腹腔内圧比)の経時的変化を現在解析中である。
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