研究課題/領域番号 |
17K11396
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
伊地知 圭 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (50510278)
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研究分担者 |
足立 誠 朝日大学, 歯学部, 講師 (10468192)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 唾液腺癌 / 低酸素 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
がん組織の低酸素領域では周辺組織への浸潤と転移、そして放射線や薬剤への耐性などの悪性化因子が増加することが知られている。唾液腺がんは放射線治療や抗癌剤が著効せず、治療法は手術療法が中心となる疾患である。しかし、唾液腺がんでは浸潤や転移によって患者の予後を悪化させるばかりでなく、手術範囲が拡大することによって顔面麻痺、咀嚼嚥下機能障害など多くの機能障害を引き起こす。したがって、唾液腺がん組織の低酸素領域での高悪性化を促進させるメカニズムを解明することは至急の課題である。 がん幹細胞は幹細胞様の性質を有すると共に、腫瘍増殖、癌浸潤・転移に関わり、低酸素腫瘍微小環境に多く存在すると考えられている。がん細胞は解糖系を利用したエネルギー産生が亢進していることが知られているが、がん幹細胞のマーカーとして知られているCD44はがん細胞における解糖系の亢進を維持していることが明らかになった。そこで、本研究では、低酸素環境下における唾液腺がん幹細胞のエネルギー代謝機構から幹細胞の高悪性化、薬剤耐性化メカニズムを解明し、腫瘍組織内低酸素微小環境のがん幹細胞をターゲットとした治療戦略の確立を目指している。 今回はまず低酸素下で培養を行い、細胞のシグナル発現変化を検討した。低酸素誘導因子の発現をwestern blottingで確認するのに時間を要したが、徐々に実験系が安定し、現在様々なシグナル蛋白の発現を検討しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
低酸素培養装置を導入し、酸素濃度を1%にして培養を行った。癌細胞を含む様々な細胞は、低酸素で培養していると低酸素誘導転写因子(hypoxia inducible factor 1alpha:HIF-1a)が誘導される。HIF-1aは低酸素環境下で安定化し、様々な転写因子を活性化することで、血管新生、放射線や薬剤への耐性、浸潤・転移能の増加など癌の悪性化に関与していることが知られている。しかし低酸素環境下で安定しているHIF-1aは通常酸素下では不安定であり、容易に分解される。まずは我々が通常培養している頭頸部扁平上皮癌細胞株UMSCC-23を酸素濃度1%で24時間培養することにより、HIF-1aが誘導されているのか検討した。また陽性対象として塩化コバルトで培養したUMSCC-23を用いた。当初はHIF-1aの発現が安定せず、抗体の種類を変更した。また陽性だったはずのサンプルを繰り返し検出すると陰性となることもあり、サンプルのdegradationが問題になると考えられた。最終的にHIF-1aの発現を安定して確認できるようになった。その後HIF-1aの発現をしている細胞が幹細胞マーカーであるCD44、細胞の生存に寄与するリン酸化AKTを発現したため、両シグナル経路を活性化し、癌細胞の生存や悪性化に寄与していることが示唆された。現在唾液腺癌細胞株を通常酸素下、低酸素下にて培養し、HIF-1aが誘導されているのか検討している。
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今後の研究の推進方策 |
この1年でHIF-1aの誘導を安定して確認できる実験系を確立したところである。現在は唾液腺癌細胞株を通常酸素下、低酸素下にて培養し、HIF-1aが誘導されているのか検討しているところである。HIF-1aの誘導が確認できたら、頭頸部扁平上皮癌細胞株UMSCC-23の時と同様に、CD44、リン酸化AKTを含むpathwayを活性化しているかどうかを検討する。既報で転写因子の一つであるSTAT3のリン酸化を阻害することにより、HIF-1aの発現が阻害されたという報告がある。また頭頸部扁平上皮癌では、CD44のバリアントアイソフォームであるCD44vが癌細胞の増殖浸潤及び転移へ特に関連していることが知られている。今後も前記の蛋白シグナル経路に加えて、STAT3、CD44vの関与も調べていきたいと考えていき、唾液腺がん細胞の低酸素領域での高悪性化を促進させるメカニズムを解明する予定である。 また複数のヒト顎下腺癌細胞株をヌードマウスの背部に移植して皮下腫瘍を作成し、腫瘍内でネクローシスをおこしている細胞株を見つける予定である。未治療にもかかわらずネクローシスをおこしている腫瘍塊ではネクローシスをおこしている領域の周囲にHIF-1aが誘導されていることが多く、腫瘍塊の中でもHIF-1a、リン酸化AKT、CD44、CD44v、STAT3などの発現が認められるか、免疫組織染色などを用いて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
培地の購入実績が予定より少なかったため、来年度に繰り越して購入予定である。
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