研究課題/領域番号 |
17K11409
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
齋藤 康一郎 杏林大学, 医学部, 教授 (40296679)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 喉頭疾患 / 音声障害 / 乳頭腫 / 治療 / 手術 / レーザー / QOL |
研究実績の概要 |
本年度も、我々の施設に特徴的に備えているグリーンレーザーによる喉頭乳頭腫に対する治療(Green Laser Photocoagulation, GRP)効果の検証を中心に行った。研究代表者が現在の施設に異動した2015年以来、2019年3月までの4年間で41名の咽喉頭乳頭腫患者に対して計88回の手術を行ってきたが、本邦で発表された、喉頭乳頭腫に関する原著論文のほとんどが症例報告で、2015年に発表された他大学の臨床統計(日耳鼻会報, 118, 2015)でも約9年間で60名の解析結果であることを鑑みると、患者が当施設に集中していることがわかる。我々が行った上記手術のうち57回は、局所麻酔で日帰りのGRPであった。2015年10月から2018年3月までの19名の喉頭乳頭腫に対する36手術、さらには検討期間を2018年8月までとして咽喉頭乳頭腫26名に対する48手術を対象に、GRPの効果について、それぞれ第12回欧州喉頭科学会(ポスター)と2018年米国耳鼻咽喉科学会(口演)にて発表した。後者で、術後の最低観察期間を3ヶ月として検討した結果、咽頭病変のみ有した4例は、全例1回のGRPでDerkayスコア(DS)は0点となっていた。喉頭病変を有した15例では、GRP前に既に平均3.1回の、何らかの手術を要していたにも関わらず、術前のDSは2-14点であったが、平均1.7回の手術により、最終診察時のDSは0-3点で統計学的に有意に(p<0.01)改善していた。声帯に病変を有した9例では、声の高さ・強さの揺らぎ、雑音といった声質の検査や、空気力学的検査である最長発声持続時間のいずれも術前後で有意差を認めず、声に関する自己評価の指標であるVHI-10は有意に改善していた。結果的に、GRPは咽喉頭乳頭腫に対して、声を悪化させずに治療効果を発揮する妥当な治療方法であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年10月にアトランタで開催された米国の再発性喉頭気管乳頭腫症(RRP) 専門委員会(RRP Task Force)にも参加し、最新の知見を収集することができた。 難治性のRRPに対する様々な治療のなかで、研究代表者の所属する施設で特徴的に行うことができるグリーンレーザーでの日帰り手術(Green Laser Photocoagulation, GRP)に関して集中的に解析を進めてきた。GRPは、喉頭機能を悪化させることなく一定の抗腫瘍効果を示す治療であることが検証できており、今年度は研究成果の一部を海外の複数の学会で発表することができた。これらの業績は国内で広く知られ、我々の施設には、関東近隣のみならず遠方からも治療を求めて患者が来院している。実際、前年度、本年度の新規取込患者が共に10名で、前述したように本邦での既報の状況からみても順調に患者が集まっていることがわかる。RRPに対する治療方針としては、米国で提示された最新のガイドライン(Stachler RJ, Francis DO, Schwartz SR, et al: Clinical Practice Guideline: Hoarseness (Dysphonia) (Update). Otolaryngol Head 2018Neck Surg; 158: S1-S42.)でも、音声障害を残さないように配慮した手術が中心とされている。我々も、病変の三次元的な広がりの把握、そして正確な病理組織学的診断のため、まず全身麻酔下に喉頭微細手術、CO2レーザーを行い、それでも残存~再発する病変に対しては外来でのGRPという方針で一環して治療を進めている。今までのところ、ほとんどの症例でこの流れによる治療で疾患のコントロールが出来ており、少なくとも成人発症のRRPに対する治療戦略としてはほぼ確立してきたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、難治性で再発性の喉頭気管乳頭腫症(RRP)の患者を積極的に受け入れ、その治療を行う。治療方法は、米国で提示された最新のガイドラインにならい、我々も繊細かつ適切な手術治療を中心にRRPの治療を推進する。術式としては、従来の研究計画通り、全身麻酔での喉頭微細手術(CO2レーザー併用)、さらに外来日帰りでのグリーンレーザーあるいはCO2レーザーを用いた内視鏡下手術を中心に行う。喉頭機能を損なわず、妥当な抗腫瘍効果を示す治療であるか否かについては、引き続きデータを収集し、解析を進めたい。また、年に2-3回開催される米国のRRP 専門委員会(RRP Task Force)にも継続して出席し、最新情報の収集を行い、世界に遅れをとらない治療を行っていく予定である。 病変の三次元的な広がりの把握、そして正確な病理組織学的診断のため、まず全身麻酔下に喉頭微細手術、CO2レーザーを行い、それでも残存~再発する病変に対してはGRPという方針については上述したが、これは成人発症症例あるいは小児発症症例でも、治療する時点で患者が成人の場合である。成人であれば、この治療の流れでほとんどの症例は年間2回以下の手術で、しかも全身麻酔下の手術は1回でコントロールできている。ただ、喉頭が小さく、局所麻酔の手術には耐えられない小児の場合、全身麻酔を繰り返さざるを得ず、RRP Task Forceでも問題にしているように、患者・家族への負担は大きい。現在エビデンスのはっきりしている薬物治療は依然存在しないこともあり、慎重に対応する必要があるが、あまりに頻回に全身麻酔下手術を要する小児症例の場合には、上記専門委員会での情報などに基づき、本邦で安全・安心に行える現実的な治療方法を模索する必要があるとも考えている。
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