研究課題/領域番号 |
17K11417
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
澤田 有 秋田大学, 医学部附属病院, 講師 (30419238)
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研究分担者 |
吉冨 健志 秋田大学, 医学系研究科, 教授 (60191623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近視眼緑内障 / 耳側篩状板欠損 / 傍中心暗点 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本人に有病率の高い近視が、緑内障の病態・症状にどのような影響を与えるか調べることである。すなわち、緑内障は視神経乳頭で生じることが明らかになっているが、近視も視神経乳頭の形態に影響を及ぼすため、近視を持つ人が緑内障になった場合、近視性視神経乳頭変形が緑内障の病態に影響を及ぼす可能性がある。そのため、近視眼緑内障では、非近視眼の緑内障とは異なる特徴的な症状が生じる可能性があり、それを探求するのが本研究の目的である。 緑内障における網膜神経節細胞軸索の障害は、視神経乳頭深部に位置する篩状板で生じることがわかっている。科研費1年目のH29年度は、近視眼における篩状板の形態を光干渉断層計(OCT)で観察し、非近視眼にはない、篩状板耳側の複数の亀裂を発見した。この亀裂は近視眼が緑内障になった場合も存続し、緑内障による浸食を受けて面積が拡大していた。亀裂の数は緑内障性視野障害の程度と相関し、また、亀裂の位置は視野障害の位置と一致していた。近視眼緑内障では視野の中心が病初期より障害される傍中心暗点が起こることが以前より指摘されていたが、篩状板耳側は、視神経乳頭-黄斑線維という、中心視野をつかさどる網膜神経線維が通過する場所であり、その部分の篩状板に欠損があることが、傍中心暗点の原因であることをつきとめた。この内容は、2017年にジャーナルに掲載された。それに関連した、篩状板欠損と非進行性の緑内障性視野障害の関係についても研究し、2018年5月にジャーナルに掲載された。
H30年度は、近視による視神経乳頭形状変化が緑内障性機能障害に与える影響についてさらに研究を進め、近視眼緑内障における視神経乳頭近傍組織の特徴と、それを踏まえたうえでの近視眼緑内障の正確な形態・機能の評価の方法について研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は、近視眼緑内障の視神経乳頭周囲構造をOCTを用いて観察し、近視眼とそれが緑内障になった近視眼緑内障では、ブルフ膜開口部(BMO)が前強膜開口部(ASCO)から耳側へ大きく変位していることを観察し、そのずれの程度の大きい眼において緑内障性視野障害の程度が強いことを見出した。すなわち、BMOのASCOからの「ずれ」が、近視眼が緑内障になった場合の緑内障性ストレスへの脆弱性となっていることを示し、この内容は、2018年11月にジャーナルに掲載された。 さらに、眼底写真で観察される視神経乳頭は、BMOから「ずれ」の部分(γゾーンPPA)を差し引いた部分であることを発見した。現在緑内障診療で頻用されている、視神経乳頭周囲網膜厚(RNFLT)測定は、眼底写真で観察される視神経乳頭を中心に測定されている。しかし、眼底写真で観察される視神経乳頭は、実際に網膜神経節細胞軸索の集まっているBMOからはγゾーンPPAの分だけずれているため、解剖学的に正確なBMO中心の測定と比較して、その値が大きく異なっている。そのため、正確な構造と機能の関係を知るためには、RNFLTは現在の視神経乳頭中心ではなく、BMO中心で測定する必要があることを提唱した。この内容はジャーナルにacceptされ、現在in pressである。 このように、2年前に科研費を取得した後、いくつかの研究結果を出し、それを4つの論文にしてジャーナルに掲載することができた。このことから、研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策は、これまで近視眼の視神経乳頭傾斜によって引き起こされる緑内障性ストレスに対する脆弱性について研究してきたが、それ以外にも近視眼に脆弱性をもたらす視神経乳頭の変形はあるものと考えられ、近視性視神経乳頭変形の緑内障性機能障害に対する影響についてさらに研究を進めていく方針である。 また、これまでの研究の過程で、近視の有無にかかわらず、視神経乳頭の脆弱性をもたらす構造変化があることにも気づいており、それと緑内障性軸索障害の関係についても研究を進めていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した学会出席が患者さんの診療のためできなくなり、その分を使用しなかったため。この額を、今年度の学会出席などに使用する計画である。
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