本研究の目的は、近視による視神経乳頭の構造変化が緑内障性軸索障害にどのような影響を及ぼすかを、光干渉断層計(Optical coherence tomography:OCT)を用いて調べることである。 研究最終年である本年は、近視眼緑内障の臨床検査で注意すべき点を示した。現在最も多く行われている緑内障検査は網膜神経線維層厚(retinal nerve fiber layer thickness: RNFLT)測定である。これは、視神経乳頭周囲の網膜神経線維層の厚さを測定し、障害の程度を示すものである。眼底検査では前強膜開口部が視神経乳頭縁として認識され、非近視眼では、これは実際に神経節細胞軸索の存在するBruch膜開口部(Bruch‘s membrane opening: BMO)と一致している。しかし、近視眼ではこれらがずれていることを、我々は昨年の研究で示した。本年度、我々は近視眼緑内障症例において、眼底写真で認識される視神経乳頭中心を中心としたRNFLT (disc-center RNFLT) と、解剖学的に正確なBMO中心のRNFLT(BMO-center RNFLT)の2通りを測定し、これらを比較した。Disc-center RNFLTでは、BMO-center RNFLTと比較して有意に耳側で厚く、鼻側で薄く測定されており、また、緑内障性視野障害の位置や程度との相関は有意に低かった。これらの結果から、我々は、近視眼緑内障症例では、RNFLTは従来のdisc-centerではなく、BMO-centerで測定することが必要であると結論付けた。 わが国では近年近視人口が増加しており、将来、緑内障患者さんの中にも近視を有する人が増加することが予想される。近視眼緑内障におけるより正確なRNFLTの検査方法を示したことは、今後の緑内障診療において意味のあることと考えられる。
|