研究課題/領域番号 |
17K11442
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村田 美幸 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (50423752)
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研究分担者 |
野田 航介 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (90296666)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 眼細胞生物学 / 糖尿病網膜症 |
研究実績の概要 |
アクロレインは煙草などに含まれる高反応性の不飽和アルデヒドであり、核酸やタンパクなどに結合してその機能を障害し、酸化ストレスを亢進させる。これまで外因性の毒性物質として知られていたが、近年、ポリアミンと呼ばれる生体内分子の酸化などにより内因性にも産生されることが明らかとなり、酸化ストレスの関与する様々な疾患で注目されている。Vascular adhesion protein (VAP)-1は白血球接着分子およびアミン酸化酵素としての機能を有し、炎症と酸化ストレスの双方に関連する興味深い分子である。申請者らの予備検討により、糖尿病網膜症患者の硝子体においてアクロレインとVAP-1が共に増加し、両者が正の相関を示すことが明らかになった。しかし、VAP-1がアクロレイン産生に関与するかは未だ不明である。本研究の目的は糖尿病網膜症におけるアクロレイン産生の機序を解明することである。 本年度の研究により、試験管内で組換えヒトVAP-タンパク (recombinant human VAP-1, rhVAP-1)をポリアミンの一種であるスペルミンと反応させると、濃度依存的に過酸化水素が生成されるという結果を得た。また条件検討により、反応バッファーの至適条件が判明した。この条件においてrhVAP-1とスペルミンを反応させ、血清アルブミンを加えアクロレイン結合タンパクをELISAで測定したところ、rhVAP-1の濃度依存的にアクロレイン結合タンパクが増加した。この反応は、VAP-1特異的阻害剤セミカルバジドにより抑制された。これらの結果は、rhVAP-1がスペルミンを基質として過酸化水素とアクロレインを生成することを示した。さらに、増殖糖尿病網膜症(PDR)患者の線維血管組織において、アクロレイン結合タンパクとVAP-1が血管内皮細胞に共局在するという結果を免疫染色により得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度交付申請書に記載した研究計画のうち、「試験管内におけるヒト組換えVAP-1タンパクとポリアミンによるアクロレイン生成の検討」については終了し、検討により学術的意義のある結果を得ていることから、おおむね順調に研究は進展していると自己評価するものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、培養ラット網膜毛細血管内皮細胞TR-iBRB2を用いて、VAP-1によるアクロレイン生成を検討する。無血清で培養したTR-iBRB2細胞にスペルミンを添加し、アクロレイン結合タンパクをELISA法で解析する。また、TR-iBRB2細胞にVAP-1を遺伝子導入して過剰発現させ、スペルミン添加時のアクロレイン結合タンパクが増加するかをELISA法で解析する。続いて腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor, TNF)-αやインターロイキン( interleukin, IL)-1βなどの炎症性サイトカインの刺激によりTR-iBRB2細胞からのVAP-1分泌を亢進させ、アクロレイン生成が増加するか検討する。 更に、TR-iBRB2細胞にアクロレインを添加し、細胞の酸化ストレス状態を、DNA酸化損傷マーカーである8-hydroxy-2’-deoxyguanosine (8-OHdG) の測定、活性酸素種の測定、抗酸化物質グルタチオン濃度の測定などにより検討し、アクロレインが網膜毛細血管内皮細胞に及ぼす影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度の研究計画は試験管内におけるヒト組換えVAP-1タンパクとポリアミンによるアクロレイン生成の検討であったが、順調に研究が行われ、予定よりも低額の研究費で計画遂行が可能であったため。 使用計画:平成30年度に計画している、培養ラット網膜毛細血管内皮細胞TR-iBRB2を用いたVAP-1によるアクロレイン生成の検討、およびTR-iBRB2細胞へのアクロレイン添加時の酸化ストレスマーカーの変化の解析実験に使用する予定である。
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