本研究の目的は、「糖尿病網膜症眼内における可溶型vascular adhesion protein (VAP)-1/semicarbazide-sensitive amine oxidase (SSAO)の産生メカニズムと同疾患の病態責任分子VEGFの関連」について検討することである。これまでの検討によって、1)増殖糖尿病網膜症患者の硝子体中可溶型VAP-1/SSAO濃度は抗VEGF製剤投与によって有意に低下すること、2)糖負荷をおこなった培養網膜血管内皮細胞に対してVEGF刺激をおこなうと、同細胞からの可溶型VAP-1/SSAO分泌は亢進すること、3)VEGFによって誘導されたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)-2とMMP-9が膜型VAP-1の切断をおこなって、可溶型VAP-1/SSAOを産生していることなどが明らかとなっていた。 今年度は、VEGFによる可溶型VAP-1/SSAO増加がどのような影響を培養網膜血管内皮細胞に及ぼすかに関する検討を行った。可溶型VAP-1/SSAOは生体内に存在する一級アミンを酸化してアルデヒド、アンモニアおよび過酸化水素を産生する酵素である。検討結果から、4)培養網膜血管内皮細胞に対するVEGF刺激は過酸化水素の産生を亢進させること、5)VEGF刺激はポリアミンの一種であるスペルミンを添加した場合に活性酸素種を増加させるが、可溶型VAP-1/SSAOに対する阻害剤を加えると同変化は抑制されることなどがわかった。これらのことは、VEGF刺激によって増加した可溶型VAP-1/SSAOが酸化ストレスを亢進させることを示していた。酸化ストレスは糖尿病における代表的な病態変化であり、本研究課題における一連の検討結果は可溶型VAP-1/SSAOが糖尿病網膜症の病態形成に寄与していることを示唆していた。
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