研究課題/領域番号 |
17K11461
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
戸田 宗豊 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30550727)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 角膜内皮細胞 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目標である「一眼のドナー角膜より5000人以上に移植可能な成熟分化ヒト角膜内皮細胞を2カ月以内に生産できる基盤技術を確立する」のうち、増幅工程については既に課題開始時に確立していた増幅培養技術で未分化増殖性細胞を本レベルにまで増幅することを達成していた。従って、当初は成熟分化細胞への誘導法の確立に注力したが、本法で増殖させた細胞は分化誘導効率が極めて低かった。そこで増幅工程の見直しを行い、細胞の重層化、線維芽細胞様形態への変化を抑制することに加え、増殖効率も約1.5倍に増加させることに成功した。この改変増幅法で増殖させた細胞は従来法に比べて分化誘導効率が高くなったものの継代を重ねることにより分化誘導効率が低下していくことが明らかとなった。そこで分化誘導前の高増幅未分化増殖性細胞の形質に変化が生じていると想定し、細胞表面マーカーの継代変化を調べたところ、角膜内皮細胞マーカーの一つCD166の発現が継代とともに低下していくことが判明した。このことは高増殖過程において自然発生的に多系列へ分化した細胞の割合が増加するものであると考えられ、分化誘導効率低下との相関が示唆された。これを指標に高増殖過程時において多系列への分化を抑制する低分子化合物の探索を行ったところ、多能性分化細胞の分化誘導に用いられる機能性低分子化合物の組み合わせにより本マーカー発現の低下を抑制できることが明らかとなった。この低分子化合物で前処理を行うことにより、未処理に比べて効率のよい分化誘導が可能となった。ただし、細胞表面マーカーおよびポンプ機能のマーカーであるNa+/K+ ATPase 発現を指標とした分化効率は30~80%で、現時点ではドナーによる分化誘導効率の変動が大きい。また、バリア機能の指標であるZO-1の発現も低く、これらが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究計画に挙げていた候補化合物である細胞骨格修飾剤およびエピジェネティック阻害剤(HDAC阻害剤)での分化誘導を試みるも顕著な分化誘導効率の増加は認められなかった。また、H30年度実施予定であったメタボローム解析からのアプローチ、すなわち、高メチオニン要求性に依拠するメチオニン欠損培地による細胞増殖抑制および高BCAA要求性に依拠するBCAA増補培地による分化誘導、インテグリン-ECM(ラミニン・コラーゲン)相互作用についても前倒しで検討を行ったが、同様に成熟分化細胞への分化誘導効果は認められなかった。 以上より、既に確立していた方法で増幅した細胞では分化誘導が極めて困難であると考え、細胞増幅工程の改変を行った。その結果、増幅効率を低下させることなく、より分化させやすい未分化増殖性細胞を得ることに成功した。5週で10000倍にまで未分化増殖性細胞を増幅することが可能となった。 また、高増殖培養の継代過程で分化誘導効率が低下していくことが判明したことから、この継代変化を抑制することにも注力し、多能性分化細胞の分化誘導に用いられる機能性低分子化合物を培養液への添加により継代変化を抑制することに成功した。本化合物での前処理により未処理に比べ効率のよい分化誘導が可能となった。ドナー角膜により変動があるが、我々が独自に選択した角膜内皮細胞亜集団選別マーカーおよびNa+/K+ ATPase 発現を指標とした場合の分化効率は30~80%にまで増加した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに確立した方法では未だドナー差が顕著であることから、比較解析によりその原因を究明し、変動を軽減する方法の確立を目指す。 また、バリア機能の指標であるZO-1の発現についても不十分であることから、成熟工程の確立に注力する。細胞間接着、細胞骨格の再構成に関わる因子の解析を主とする。 加えて、研究計画書にH30年度以降の実施予定に挙げていた代謝修飾剤による分化誘導についても検討を行い、未分化増殖性細胞からの成熟分化角膜内皮細胞への効率のよい分化誘導法の確立を目指す。
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