水晶体上皮細胞(LECs)が上皮間葉系移行(EMT)により、Ⅰ型コラーゲンを主とする細胞外マトリックスが産生され、前嚢下白内障となる。このEMTにはTransforming growth factor (TGF)-βが重要な因子となる。我々は、昨年このTGF-βによるEMTが、Rho kinase(ROCK)阻害剤により抑制されることを報告した。すなわち、培養ヒトLECsでは、TGF-β2により誘導されるI型コラーゲンとα-平滑筋アクチンの発現をROCK阻害剤であるY-27632が抑制し、さらに紫外線で誘導したマウス前嚢下白内障形成を抑制した。 近年このROCK阻害剤の効果は、ROCKの単量体アクチンを重合させる働きを抑制し、細胞質内の単量体アクチンを増やすことが関与していることが知れらている。すなわちEMTで重要な働きを持つMRTFは、単量体アクチンとの結合がはずれることにより核内移行し、I型コラーゲンとα-平滑筋アクチンの発現など様々なEMTのメカニズムを動かす。しかしながらROCK阻害剤によってアクチン重合が阻害され、細胞質内の単量体アクチンが増えると核内移動ができず、その結果としてEMTが抑制される。 これらのメカニズムが、水晶体上皮細胞など眼部の細胞でも機能しているかを検討した。まず、MRTFの機能がわかっている網膜色素上皮細胞を用い、TGF-βによるI型コラーゲンとα-平滑筋アクチンの発現への影響、さらに、ROCK阻害剤、MRTF阻害剤の影響を調べた。この結果、水晶体上皮細胞と同様に、網膜色素上皮細胞においてもTGF-β2はI型コラーゲンとα-平滑筋アクチンの発現を誘導し、両阻害剤は抑制した。さらに、ROCK阻害剤によってMRTFの核内移動は抑制されていた。以上の結果から、眼部においてもROCK/MRTFの系がEMTには重要と思われた。
|