加齢黄斑変性症は、神経網膜外側にある脈絡膜毛細血管板の変容より神経網膜を障害する中途失明疾患であり、脈絡膜毛細血管板の維持には色素上皮細胞(RPE)より分泌される血管内皮増殖因子(VEGF)が関与する。我々は脈絡膜低形成の表現型を示すAldh1a1(Aldehyde Dehydrogenase 1a1)欠損マウスの解析において、胎生期Aldh1a1から合成される神経網膜由来のレチノイン酸がRPEのVEGF発現量を制御することを明らかにした。また、老齢Aldh1a1欠損マウスは萎縮型加齢黄斑変性の病態を示す事、および病態発生前のRPEおよび神経網膜で発現変化する既知、未知の遺伝子群を同定した。 本年度はこれらの結果を受けて、①発症前のAldh1a1欠損マウスのRPEの形態変化をより詳細に解析を進め、電子顕微鏡観察においてAldh1a1欠損マウスRPEにおける基底膜構造(Basal infoldings)が正常型と比して疎になっていること事が分かった。次に、②脈絡膜発達後におけるAldh1a1の機能を検証するため、出生後(脈絡膜血管形成後)にビタミンA欠乏飼料で生育させたマウスのRPEおよび脈絡膜の解析を進めた。免疫組織化学的解析において老齢RPEで僅かな縮退が認められたが、脈絡膜においては有意な形態変化は認められなかった。また、RPEの遺伝子発現をRT-qPCRで解析したところ、Aldh1a1欠損マウスRPEと異なる遺伝子変化を示した。これらの結果より、Aldh1a1欠損マウスにおける加齢黄斑変性様の病態は胎生期の脈絡膜低形成の影響である事が示唆された。なお、②の解析において並行して進めていたAldh1a1 floxマウスの解析において、凍結胚の供与を受けたが出生した産仔より該当マウスが得られなかった。
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