研究課題/領域番号 |
17K11477
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田中 惠子 新潟大学, 脳研究所, 特任講師 (30217020)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 急性視神経炎 / 抗MOG抗体 / 抗AQP4抗体 / 免疫治療 / ヒト型MOG発現マウス / 炎症病態機序 |
研究実績の概要 |
急性発症の視機能障害の中で、自己抗体が介在する中枢神経炎症性脱髄疾患による場合は、重篤な視神経炎を生じる。病態の早期診断、速やかな治療導入で視機能改善が得られる。これまで急性視神経の診断マーカーとして、抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)抗体および抗aquaporin (AQP) 4抗体が知られ、これらの抗体陽性例では免疫療法が奏効する。抗体の視神経炎における病態機序は不明であり、特に、MOGはその機能自体が解明されていない。本研究では、急性視神経炎の標的抗原であるMOGに対して自己抗体を生じる疾患の臨床病態を明らかにし、機能が不明であるMOG蛋白が、抗体の作用により視神経炎を発症する意義について明らかにすることを目的とした。これまでの研究により現時点までに以下の結果を得ている。 1)全国の神経眼科から診断のために当施設に送付された、急性発症視神経炎370例について抗MOG抗体および抗AQP4抗体検査を行なった。このうち、抗MOG抗体陽性例は10.2%を占め、抗AQP4抗体陽性例が12.4%であった。各抗体陽性群について、その臨床的特徴を明らかにし、各抗体陽性例の相違点を明らかにした。抗体種による臨床的特徴の差違を明らかにすることで、それぞれの治療反応性の相違、それらの情報に基づく病態の相違を明らかにする基盤作った。 2)本症の発症病態研究には、本症患者に生じる抗体が認識するMOG蛋白を発現するモデル系が必須である。しかしながら、患者に生じる抗MOG抗体はマウス・ラットのMOGに対する反応が極めて不良である。そこで、ヒト抗体が結合するヒト型MOGを発現する遺伝子改変マウスの作製に向けて準備を進めている。本遺伝子改変マウスに対して、疾患由来の抗体反応を臨床的、免疫学的、病理形態学的解析を行い、その炎症動態を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展し,視神経炎370例について、抗MOG抗体および抗AQP4抗体を、それぞれの抗原蛋白を細胞膜に発現させて抗体反応を検出するcell-based assay法にて解析することができた。各抗体陽性例の臨床情報を元に、それぞれの特徴を抽出し、抗MOG抗体陽性視神経炎の臨床的特徴を明らかにして、抗AQP4抗体陽性視神経炎の特徴と比較検討した。両者の特徴には様々な点で相違があり、治療反応性、経過予後の違いを明らかにした。平成30年度は、それぞれの抗体陽性例の各種治療に対する反応性や長期経過中の再発頻度などを解析し、これらのデータを基にした診断・治療法に関するガイドライン作成の基盤を作る予定である。 一方、ヒト型MOGを発現するマウスについては、MOG蛋白のN末細胞外ドメインを時限的に発現するマウスの作製を行っている。すでに、ヒト型MOG 遺伝子を組み込んだベクターを導入したマウスの作製に成功しており、交配を進めてoligodendrocyteにヒト型MOGが過剰発現するマウスの安定的供給が可能な体制作りを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1.これまで、抗MOG抗体陽性視神経炎及び抗AQP4抗体陽性視神経炎多数例の臨床情報を収集してきた。これらを基に多項目に及ぶ詳細なデータベースを作成し、病状経過と治療法や抗体価との関係を明らかにし、至適治療法の検討を進める。 2.抗MOG抗体陽性例は視神経炎を呈する頻度が高いものの,脊髄炎や広汎な大脳病変を主徴とする病型を呈することもあるため、病型により抗体が認識するMOG構造の差違についての検討を進める。 3.ヒト型MOGを発現するマウスが安定的に得られる体制を構築し、マウスの脳内に抗MOG抗体陽性患者IgG分画を投与して作成した疾患モデルについて,詳細な視機能および行動解析、視神経・その他の中枢神経組織の形態学的,免疫学的検討を加える。本抗体を生じない他の炎症性神経疾患および非神経疾患患者由来のIgG投与マウスについても同様の手法で検討を加え,抗体陽性群との比較検討を行う。これにより,MOGの機能を明らかに出来る可能性があり、さらに視神経炎における抗MOG抗体の病態への関与を解明する。これにより,抗MOG抗体が介在する視神経炎の病態に基づいた治療法を策定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額に計上した研究費は、抗MOG抗体陽性視神経炎モデルの病態解析に向けた動物の飼育、脳内注入システムに関わる物品の購入,免疫組織染色に使用する各種抗体の購入に使用予定である。
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