研究課題
斜視手術は外眼筋の手術治療によって一般的には良好な成績を修めているが、慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)のように手術治療によっても予後不良の疾患を含んでいる。CPEOの確定診断には筋肉の生検により病理学的に行われているが、侵襲が大きく外来診療の中で行うことは容易ではない。ミトコンドリアDNA(mtDNA)の欠失を伴うことも多いが、白血球からは欠失が検出されることは少なく、口腔粘膜からのDNA検査が注目されている。われわれはCPEOの疑われる患者において、遺伝子診断を試みて、簡易診断の可能性について報告している。本研究は、症例数を増やし、口腔粘膜、白血球、外眼筋等、種々の検体に対して簡易に診断可能な遺伝子診断法の開発を行う。前年度までは口腔粘膜由来DNAを抽出するために症例の両頬を綿棒で擦過してDNAを抽出していたが、得られたDNAは精製度が低く収量が均一ではなかったためにPCR増幅の再現性が悪かった。正確なCPEOの遺伝子診断を行うためには精製度の高い口腔粘膜由来DNAを均一量得ることは非常に重要である。そこで本年度は患者から唾液検体を頂き唾液由来DNAを用いてCPEOの遺伝子診断が可能かどうかを検討した。唾液由来DNAの多くは白血球由来DNAであるが口腔粘膜由来DNAも存在しており、唾液検体からCPEOの遺伝子診断が可能である事が分かれば患者の侵襲をより少なくして検査が可能である。浜松医科大学を受診したCPEOが疑われる2症例から血液と唾液を頂き遺伝子診断を行った。結果、両症例の血液検体からはmtDNAの欠失は検出されなかったが、唾液検体から欠失を検出した。来年度は更に症例数を増やして唾液検体でCPEOの遺伝子診断を検討する。また、過去に実施したCPEOの遺伝子診断でmtDNAの欠失が検出されなかったCPEOが疑われた患者に対しても唾液検体による遺伝子診断を再検討する。
2: おおむね順調に進展している
正確なCPEOの遺伝子診断を行うためには精製度の高い口腔粘膜由来DNAを均一量得ることが非常に重要である。本年度は口腔粘膜細胞からのDNA抽出が現手法ではDNAの収量が少なく精製度が低い為、患者から唾液検体を頂き唾液由来DNAを用いてCPEOの遺伝子診断が可能かどうかを検討した。唾液由来DNAの多くは白血球由来DNAであるが口腔粘膜由来DNAも存在しており、唾液検体からCPEOの遺伝子診断が可能である事が分かれば患者の侵襲をより少なくして検査が可能である。当初、既にミトコンドリアDNA(mtDNA )の欠失が検出されている患者の唾液検体を頂き、コントロールとしてmtDNAの欠失が検出できるかどうかを検討する予定であったが、検体が得られなかったため今年度新たに浜松医科大学を受診したCPEOが疑われた2症例の唾液と血液検体でCPEOの遺伝子診断の検討を行った。インフォームドコンセントの上で、血液と唾液からそれぞれDNAを抽出した。血液の場合は7ml採血し、QIAamp DNA Blood Midi Kit(QIAGEN社)を用いてDNAを抽出した。唾液の場合は唾液1mlをOragene (DNA genotek社)に採取してDNAを抽出した。各患者のDNA約20ngをロングPCR法に用いた。結果、両症例の血液検体からはmtDNAの欠失は検出されなかったが、唾液検体から欠失を検出した。
今年度は唾液検体を用いてCPEOの遺伝子診断が可能かどうかを検討する事が出来た。来年度は更に症例数を増やして唾液検体でCPEOの遺伝子診断を継続して検討する。収集する検体は明らかにCPEOの疑われる症例のみでなく、眼瞼下垂が比較的軽度な症例を含めて検討する。検体は可能な限り血液と唾液の両検体の収集を試みる(斜視手術を実施した症例については外眼筋検体も収集する)。今年度の検討で確定診断が得られた2症例は細隙灯顕微鏡検査、眼底検査の他、眼位、眼球運動、立体視について更に詳細に検査を行う。また、過去に実施したCPEOの遺伝子診断でmtDNAの欠失が検出されなかったCPEOが疑われた患者に対しても唾液検体による遺伝子診断を再検討する。唾液検体から欠失を同定出来なかった症例については原因変異を同定する為、既報告のCPEOの原因変異遺伝子(POLG、TWNK、SLC25A4など)について変異解析も検討する。
研究消耗品の調達に際し、予定額より安価で購入できたため253,400円の繰越金が生じた。本研究ではCPEOの原因遺伝子の変異探索を行う。当施設には既に必要な設備が整っているため主な消耗品はシークエンシングに用いる試薬である。
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