研究課題/領域番号 |
17K11491
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
須藤 則広 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80646216)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 網膜 / 再生 / 転写制御 / ChIP-seq |
研究実績の概要 |
網膜ミュラー細胞は網膜前駆細胞と転写因子の発現が極めて類似しており、魚類などでは成体幹細胞と考えられているが、哺乳動物においてほとんど再生能は示さない。その理由はミュラー細胞における多分化能や神経分化に関わる遺伝子カスケードの消失にあるのではないかと推測している。本研究では網膜前駆細胞とミュラー細胞に共通して発現している転写調節因子(転写因子)を選びその標的遺伝子およびエンハンサーの変化について、エピジェネティクス修飾と相関させて網羅的に解析を行うことを計画している。 一昨年度立ち上げたChIP-seq解析の結果にエピジェネティクス修飾の情報を重ねて示す予定であったが、エピジェネティクスデータ取得にはセルソーターによる細胞分離が必要となる。しかしコロナウイルスの影響で外部機関での利用が未だに再開できない状態にある。そこで転写因子Sox9のChIP-seq解析のピークを網膜前駆細胞と成熟網膜で比較することを優先し、本年度は十分な量のクロマチン調製などの準備に充てた。エピジェネティクスの情報(データ)は場合によっては後から付け加えることもでき、また外部データを引用することも可能なのでそれらの可能性について検討している。 さらに昨年度報告した内容で、マウスの成熟網膜を初代培養すると一部のミュラー細胞が増殖し、その過程でiPS遺伝子のoct4、c-myc、sox2およびnanogが培養開始後から増加することが本研究において明らかとなった。マウスの成熟ミュラー細胞では魚類などとは異なりリプログラム関連遺伝子が動きにくくなっている可能性示していると考えられるが、条件が整えば生体内でも増殖が可能になる可能性を示している。この件についても引き続き解析を続ける。 本年度は大学の新校舎移転ならびにコロナウイルスの影響等で計画を遂行できていないことが多く、研究期間の再延期が必要と判断し申請を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はコロナウイルスによる大学の経営問題により約一か月間の一次帰休が行われ、さらに新校舎移転がほぼ一年間通して行われた為に研究の実施が遅れた。また緊急事態宣言時や感染等により出勤できない場合に備えマウスの飼育数も削減したことも大きく影響し、さらに物品等の購入も入荷に時間がかかるなど多方面からの影響があった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは生後網膜前駆細胞と成熟ミュラー細胞におけるsox9 ChIP-seq解析を先行して進める。次に得られたChIP-seqのピークがエンハンサーやプロモーター領域であることを示すためにH3K27ac(エンハンサー)やH3K4me3(プロモーター)などエピジェネティクス修飾は最低限明らかにする必要がコロナウイルスによる影響で機器の使用ができないので、RNA-seqの解析と組み合わせることで、ChIP-seqの標的遺伝子その関連性は推測できると考えられる。当初予定していたヒストン修飾、rax、pax6、chx10遺伝子のChIP-seq解析はミュラー細胞が分離できた段階で時間等を考慮して検討する。 上記の結果をもとに、sox9転写因子の転写制御モデルを構築する。本解析では胎生期網膜前駆細胞、生後網膜前駆細、ミュラー細胞の比較を通して、網膜前駆細胞の分化能が限局される過程およびミュラー細胞の成熟過程それぞれにおける転写制御ネットワークの遷移も解析可能だと考えているが、最低限、生後網膜前駆細、ミュラー細胞を比較することでも解析が可能である。またエンハンサーの活性の真偽についてもレポータアッセイやChIP-qPCR等の検証を加える予定である。さらに初代培養における細胞周期の再進入に関わる遺伝子を絞り込み、これら遺伝子がミュラー細胞においてH3K9me3(永続的抑制)、H3K27me3(一次的抑制)のどちらで修飾されているのか検討してみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新校舎移転による引越しやコロナウイルスの影響など複合的な理由により研究の遅延が生じた。 繰り越し予算はChIP-seqやRNA-seq解析、試薬、消耗品、動物購入など当初の予定通り使用する予定。
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