網膜のグリアであるミュラー細胞と発生期の網膜前駆細胞は遺伝子発現、特に転写調節因子(転写因子)の発現が極めて類似しており、成体幹細胞と考えられているが、哺乳動物においてほとんど再生能は示さない。その理由はミュラー細胞における多分化能や神経分化に関わる遺伝子カスケードの消失にあるのではないかと推測している。本研究では網膜前駆細胞とミュラー細胞に共通して発現している転写因子を選びその標的遺伝子およびエンハンサーの変化について、エピジェネティクス修飾と相関させて網羅的に解析を行うことを計画した。 転写因子の標的遺伝子を明らかにするために網膜前駆細胞および網膜ミュラー細胞を用いてChIPシークエンス解析を進行いていたが、ミュラー細胞において途中のChIP assayで難航した。原因としては網膜組織に占めるミュラー細胞の割合が低いこと、並びにsox9の発現量が極めて少ないことからChIPシークエンス解析に必要な量の免疫沈降サンプルが得られていないことであった。そこで先に網膜組織からミュラー細胞を分離してからクロマチンを調整し、ChIP assayを行うことに再度チャレンジした。以前も試みているが今回は新たな論文の報告をもとに磁気ビーズを用いたミュラー細胞の分離を行った。その結果RT-PCRやウエスタンブロティングにおいてsox9遺伝子の濃縮が確認されたことから、ミュラー細胞におけるChIPシークエンス解析への進展が可能となった。 本研究期間中はコロナウイルスに伴う行動規制や一時帰休、校舎移転に伴うマウス処分や実験中断(いずれも前所属)、物品入荷遅延など非常に多くの要因により研究の進展が遅れた。しかし本研究は最後の段階で目的の達成が可能な成果が得られているため研究を継続して網膜前駆細胞とミュラー細胞の標的遺伝子の解析を行い、成果としてまとめる予定である。
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