緑内障の治療は眼圧下降が最も効果的であり、代表的な眼圧下降手術である線維柱帯切除術は濾過胞を形成させるが、時に濾過不全を生じる。維柱帯切除術時に、術後結膜瘢痕癒着抑制に使用されているマイトマイシンC(MMC)などの線維芽細胞増殖抑制薬は濾過胞感染など重篤な術後副作用が問題となっており、これに代わる薬剤が必要とされている。今回イヌ緑内障手術モデル眼を作成し、マルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブを用いて検討した。 <術後レゴラフェニブ点眼の眼圧下降および濾過胞形成におよぼす効果>すでにわれわれは、前年度までにレゴラフェニブ点眼により有意に眼圧が下降と濾過胞形成が持続し、濾過胞の結膜下組織のコラーゲン密度、毛細血管数はレゴラフェニブで有意に低下していることを見出し第29回日本緑内障学会総会(2018年9月14-16日、新潟)で発表を行った。 <マイトマイシンCとの比較検討> 最終年度においては、マイトマイシンC術中暴露とレゴラフェニブ点眼との比較実験を行なった。緑内障手術時に実際に行われているように、術中にマイトマイシンC 4mg を強膜に3分間浸透させた後に150mlの生理食塩水で洗浄した群(n=6)と、2%レゴラフェニブ点眼を術後12週間1日2回点眼した群(n=6)を作成した。その結果、レゴラフェニブ群とMMC群では同等の眼圧下降と濾過胞形成を認めたが、超音波生体顕微鏡(UBM)にて濾過胞壁はレゴラフェニブ群で有意に厚く形成されていることが確認できた。また、濾過胞の結膜下組織のコラーゲン密度と毛細血管数もレゴラフェニブ群で有意に高値だった。 以上より、濾過手術後にレゴラフェニブを点眼することにより、MMCと同等の濾過胞維持効果と眼圧下降が得られ、MMCに比べて虚血や菲薄化の少ない濾過胞形成の可能性により術後合併症を抑制できる可能性が示唆された。
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