研究課題
ヒトの視覚系の(さらに一般化してヒトの中枢神経系の)経シナプス逆行性変性(TRD)の有無や時間経過を知ることは、神経損傷後の再生医療やリハビリテーションの方策を考える上での予備知識として重要である。しかし、非侵襲的にTRDを調べるこれまでの方法には、感度や定量性に問題があり、外側膝状体よりも後方の視覚路障害による後天性同名半盲患者において、網膜神経節細胞の変性を示唆する眼科臨床所見がないことから、成人のヒトの視覚路でのTRDの存在は否定されていた。しかし、我々は網膜厚の定量化が可能な後眼部OCTを用いて、後頭葉障害後の同名半盲患者において、視野欠損に対応する黄斑部の網膜神経節細胞複合体厚や網膜神経節細胞層+内網状層厚などの網膜内層厚の有意な菲薄化を見い出し、この菲薄化はTRDに起因する可能性があることを報告した。この網膜の菲薄化は周辺部よりも中心部において顕著であり、経過期間と有意に相関していた。また、後頭葉後極に限局する脳病変で、発症直後には網膜内層厚の変化がなく、数年後に菲薄化が出現する症例では、TRDの関与が考えられるが、発症後早期に網膜厚の変化がみられる症例では、前部視路への直接の障害がある可能性も否定できない。一方、対光反射経路には後頭葉の関与はないはずだが、実際には後頭葉障害症例でも、半盲性瞳孔強直や脳病変の対側眼の対光反射減弱などの対光反射異常が検出される。そこで、我々は網膜厚や対光反射の変化のメカニズムの解明のために、同名半盲患者の責任脳病巣の位置を標準脳上で同定し、グループデータ解析を行っている。その結果、後頭葉病変の存在が網膜内層の菲薄化に関連していることが確認されたが、半盲性瞳孔強直と網膜内層の菲薄化の関連は弱いことも判明した。また、3年以上の経過観察においても網膜内層の菲薄化のない同名半盲症例もあり、このような症例群の責任脳病巣についても調べている。
2: おおむね順調に進展している
脳画像解析ソフト(MRIcro)を用いてMRI画像を解析している。結果の一部は昨年の日本臨床眼科学会で報告した。
脳画像解析ソフト(MRIcro)を用いてMRI画像の解析を継続し、さらに結果の精度を上げてこの研究期間内に最終的な結論を導くことが目標である。後天性後頭葉障害による同名半盲症例で、半盲側に対応した網膜内層厚の局所的菲薄化が2~3 年以内に生じる症例群と菲薄化がみられない症例群の視路障害の責任病巣の部位に違いがみられるかについても検討する予定である。後者の症例群の存在は、長期間の経過観察の結果、最近になって明らかになってきたものである。
まだ論文が完成していないため、次年度以降に論文関連の予算を回す必要がある。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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