研究課題/領域番号 |
17K11501
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
田中 卓 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 視覚科学研究室, 研究員 (20443400)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 網膜 / 黄斑 |
研究実績の概要 |
マイクロアレイ解析で網膜黄斑部とその周辺部との間で2倍以上の発現差を示した遺伝子を対象にパスウェイ解析を試みた。その結果、発現が促進している遺伝子はカルシウムシグナルやシナプス小胞など神経情報伝達に関与するものが多い一方、低下を示した遺伝子群は細胞周期、細胞障害反応に関与する経路で作用するものが多かった。これまでのデータ解析から神経情報伝達物質以外にも各種シグナル受容体の領域間の発現差が確認されており、黄斑部を特徴づける遺伝子として受容体は重要なカテゴリーと考える。 マイクロアレイデータから2倍以上の発現変動幅、p値0.05以下の基準で選択した遺伝子群のなかから、データ解析や文献調査をもとに選別した“黄斑変動遺伝子”の解析を進めている。ヒトiPS細胞から網膜細胞を誘導する培養細胞系での解析がメインとなるが、はじめに我々が以前から検討している眼胞を形成した胚様体の接着培養(計30日培養)で得られたヒト神経網膜細胞での発現を調査し、ヒト網膜組織での発現レベルと比較した。その結果、網膜分化誘導細胞は周辺部の発現パターンに比較的類似していた。機能解析については網膜分化誘導過程の適切な時期での発現調節による影響を評価するが、検証対象の遺伝子の各種発現ベクターを準備し、並行してヒトiPS 細胞におけるPiggybacベクターによる発現誘導系の構築、mRNAによる一過性発現系の検討を実施した。最終年度にかけて、黄斑変動遺伝子の網膜分化への影響や黄斑機能との関連についての探索を順次続けていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年H30年度は他の研究プロジェクトの職務に多くの時間を費やす必要が生じ、まとまった実験時間を確保できず、データ解析や調査を中心に研究を進めた。それゆえH30年度に予定していた実験は準備を終え、着手に至った段階である。 黄斑で周辺の領域と異なる発現を示す遺伝子が有する機能面での特徴や関連するシグナル伝達に関する情報を得ることができた。詳細に解析すべき遺伝子および、機能を考慮した検証の方向性は定まったので、研究計画の前半部は完了した。しかし最終年度で本研究の主要部分を遂行しなければならず、計画の進捗は予定よりも遅れている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析、調査から黄斑形成との関連が示唆される候補遺伝子がいくつか見つかったので、発現の面からより詳細な検証を行うとともに、並行して機能の面から黄斑とのつながりを探る。特にこれまで眼発生、網膜分化との関連が報告されていない転写産物の解析から新規知見の取得を目指す。 本研究の目的の1つに黄斑部類似の細胞集団の導出があるが、黄斑はヘテロな細胞集団から構成されているので、構成細胞の情報が必要になる。今年に入りシングルセル解析による黄斑部のトランスクリプトームの報告がなされたので、先行研究の内容も加味して研究計画で掲げた目標を達成するための実験を進めていく予定である。
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