研究実績の概要 |
小児網膜のマイクロアレイ解析により選別した黄斑部変動発現遺伝子(Differentially Expressed Genes: DEGs)から、上方制御2位のCytochrome P450, family 26, subfamily A, polypeptide 1 (CYP26A1)および下方制御の最上位Deiodinase, iodothyronine, type III (DIO3)の2遺伝子の関連解析を中心に実施した。 レチノイン酸と黄斑形成との関連は以前から示唆される報告があったが、今回、レチノイン酸代謝酵素であるCYP26A1がDEGsに選別されたことにより、黄斑部特異的なレチノイン酸代謝が強く示唆された。黄斑部と周辺部とのレチノインの濃度差が、黄斑形成、成熟に関連する遺伝子の発現に強く影響するとの仮説のもと、上方、下方制御の各上位5DEGsの発現に対するレチノイン酸の影響を網膜芽腫由来細胞株(WERI)で調べた。その結果、上方制御DEGsに対する影響は限定的であったが、下方制御DEGsは全般的に発現低下の傾向を示した。 DIO3は視細胞の運命決定に関与する甲状腺ホルモンシグナル経路で働く酵素である。DIO3の発現が低い状態では高活性型の甲状腺ホルモン(T3)の存在比が高くなっており、上方、下方制御の各上位5DEGsとT3との関係についてWERIを使用して調べた。その結果、T3の添加培養下でCYP26A1の顕著な発現促進が確認された。 下方制御2位のDEGは21番染色体に存在する機能未知遺伝子であったが、iPSCsの網膜分化誘導系を使用した発現解析では、網膜前駆体が生成される初期の頃から顕著な発現上昇がみられ、この上昇はレチノイン酸投与により抑制された。 レチノイン酸シグナルおよび甲状腺ホルモンシグナルの視点から網膜黄斑部形成、成熟に関する新たな知見の探索を続けている。
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