本研究は,高周波の超音波を用いて大腸組織画像を取得し,臨床の場でHirschsprung病診断のためのリアルタイム「バーチャル生検」を目指したものである。研究では,音響特性データを取得して,診断における課題と有用性を明らかにし,診断デバイスの開発につなげることを目標とする。 ヒト小児のパラフィン包埋大腸組織を用いて,超音波顕微鏡像と光学顕微鏡とを比較して組織構造学的評価を行った。その結果,intensityに基づいた超音波画像所見は,大腸の粘膜層や筋層といった組織構造が,光学像とほぼ同様に描出された。320 MHz帯の高周波プローブを用いた観察では,Hirschsprung病を診断する際のポイントとなる神経節細胞を同定し得た。次に,腸管の組織構造や神経節細胞の超音波顕微鏡による同定をex vivoで行った。しかし,パラフィン包埋切片を用いた観察と異なり,神経節細胞を同定することは容易でなかった。超音波顕微鏡のセッティングの見直しや,組織切片作成方法の工夫等をしたが奏功しなかった。打開策としてインピーダンスデータをもとに時間周波数分析を応用した3D画像を構築することで,診断手法に活路を見出そうと取り組んだ。本手法は,皮膚の構造を3D化して観察する方法として開発が進んでいる。しかし,皮膚と腸壁とでは超音波ビームの減衰や多重反射の状況が異なるのでそのまま応用することはできず、また,細胞核の同定も困難であった。解像度を上げるには超音波周波数を上げる必要があるが,それは超音波ビームの深達度が浅くなり、Hirschsprung病の診断根拠に関わる筋間層神経節細胞の同定ができなくなる問題があった。 本研究では、こうした音響データを得たのちに、それを応用してデバイスの開発につなげることを企図していたが、前者の段階で課題をクリアできなかったためデバイスの開発研究を進めることが出来なかった。
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