研究課題
申請者らは前駆脂肪細胞にex vivoで治療用遺伝子を導入し、それを患者に移植することによる治療用タンパクの体内における持続発現と血中への分泌を可能とする独自の治療研究を進め、再生医療等安全性確保法の下、希少疾患である家族性LCAT欠損症を対象とした第一種再生医療臨床研究を実施中である。この治療技術は他の遺伝子を用いることで数多くの難病に苦しむ患者に応用可能な汎用性の高いものであるが、他の疾患への応用展開には移植用細胞の輸送や移植に関するさらなる技術革新が必須である。本研究では、移植用細胞の特性維持を可能とする保存・運搬さらには移植用の細胞懸濁用カクテルの技術基盤を確立することを目的とする。H29年度の検討結果、溶液A(既報に基づきさらに改良されており、その組成は非開示)が現状使用している細胞懸濁液であるリンゲル-HSAに比べて有意にバイアビリティを向上させることが確認できていた。H30年度は、既報の情報の範囲で、これに含まれている物質が、ccdPAのバイアビリティにどのような影響を与えるのか、また、溶液Aはかなり複雑な組成であることから、溶液Aと同等の性能を有するシンプルな細胞懸濁液の確立について追加検討を進めた。最終的な出荷の段階では細胞の濃度はかなり濃くなることから、複数のドナー由来のccdPAについて検討するとともに、出荷時の細胞濃度での検討も行った。その結果、リンゲル-HSAに緩衝能と医薬品原体(M)を追加するのみで、溶液Aと同等の細胞生存効果が確認された。HSAについてもヒト血液由来の製剤ではなく、組換え型HSAの方が優れていることが明らかとなった。このシンプルな組成と溶液Aとで細胞濃度を比較した場合においてもバイアビリティは同等であった。最終年度は、マウス移植実験を中心として組成の至適化を図る予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究を開始する前の段階で、培養フラスコに接着している細胞のバイアビリティを低温で長時間維持することが可能である溶液が他の細胞系で報告されていた。その溶液について、その改良型(溶液A)を入手し、前駆脂肪細胞懸濁液に適応が可能かどうかを検討したところ、40時間の4℃保存後も80%程度のバイアビリティを維持できることが確認され、これまで用いていたリンゲル-HSAよりも4℃保存でのバイアビリティが明瞭に向上した。その組成は複雑であることから、よりシンプルな組成を目指した検討をH30年度に実施した。その結果、独自の、かつシンプルな組成の細胞懸濁液が確立された。これらの検討結果から、このシンプルな組成の細胞懸濁液と溶液Aを比較検討しながら最終年度の検討をすすめることとした。計画立案当初はPRP成分の検討をマウス移植実験で検討する予定であったが、千葉大学の既報論文での成果も含めてFGFの添加について今後の検討課題と考えている。これらの状況を踏まえて添加物質MのccdPAに対する影響の検討及びマウス移植実験に移行できる状態にあると考えている。
現時点で溶液Aと同等のシンプルな組成の細胞懸濁液が確立されている。従って最終的な組成の至適化をマウス移植実験の過程で行うことで本研究の主要目的は達成できるものと考えている。今後の移植実験では全ての導入遺伝子で実施することは考えておらず、種々の測定系が確立されているLCAT遺伝子及び血液凝固第8因子(FVIII)を主な導入遺伝子として用いた実験を進める。溶液Aについては海外の臨床試験で被験者に投与されている実績があることから、私たちの遺伝子導入脂肪細胞の臨床応用においても適応が期待できる。候補物質Mは臨床で経口投与されている医薬品であるが、本治療法が適応となる皮下注射では適応はない。今後は移植効率に関する検討をマウス移植実験により評価していく予定であるが、それと並行し今後の臨床適応に向けて、その基礎となるマウス投与実験DATAを取得する方針である。
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