研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSC)はiPS細胞と比較して癌化の危険性が低いこと、免疫抑制作用があるなどの利点を有しており再生医療の移植材料として用いられている。MSCは主に骨、軟骨、脂肪への分化能を有しているが、実際in vitroでMSCに分化誘導するとそれらの分化能はドナーやMSCを分離する組織の違いによって高低差があり一定では無い。現在のところ、MSCの分化能を分化誘導前の段階で予知する技術は確立されていない。そこで我々は分化誘導前にMSCに発現している遺伝子を定量し、それらの値と分化誘導後に定量した分化マーカー値との関係性を評価することによって、骨、軟骨、脂肪の分化予知遺伝子マーカーを検討してきた。令和2年度は前年度に引き続いて骨分化予知遺伝子マーカーの同定を行った。前年度には、骨分化予知マーカーの候補として17個の遺伝子(MCAM, DNCI1,HGF, SRGN, SERPINI1, ACLY, P4HA2, ITGA5, TFPI2, KCTD12, LIF, PSMC5, CD74, TRIB2, IGF1, HLA-DRA, HLA-DRB)を抽出することができた。今年度は骨分化能の異なる3種類の細胞(腸骨由来MSC、顎骨由来MSC、線維芽細胞)間のこれらの遺伝子発現レベルを比較することによって、7つの遺伝子(HGF, SRGN, SERPINI1, TFPI2, KCTD12, TRIB2, IGF1)を骨分化予知マーカーとして同定することができた。これらの遺伝子は、骨分化能が低いとされる線維芽細胞での発現レベルが低く、さらに骨分化能が高い腸骨由来MSCと顎骨由来MSCの両細胞で発現レベルが高い遺伝子であったことより、MSCが有する骨分化ポテンシャルを他の10個の遺伝子よりも予知できる可能性が高いのではないかと考えられた。
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