研究実績の概要 |
ケロイド患者の①発赤部と②肥厚部③正常真皮から線維芽細胞および幹細胞様細胞を培養した。同時に、④ケロイドを認めない 健常人の真皮由来線維芽細胞および幹細胞様細胞を本研究のコントロールとした。平成29年度は、①-④から得られた、線維芽細胞及び幹細胞様細胞を用いて、その増殖能や形態的特徴などを検討した。遺伝子発現について比較検討した結果、①から④の各細胞は増殖能も形態的にも特徴があり、幹細胞関連遺伝子発現にも、違いが認められた。A遺伝子の発現は、幹細胞様細胞において、④と比較して①-③で有意に高く、A遺伝子が関与するシグナル関連遺伝子の発現も同様であった。A遺伝子の阻害剤Xを細胞に作用させると、ケロイドで高発現を認めた遺伝子(COL1A2, FN1, IL-6, CTGF)の発現は抑制された。阻害剤Xをケロイド由来幹細胞および線維芽細胞に作用させ ると、ケロイド由来幹細胞においてのみ、濃度依存性の抑制効果が確認された。平成31年度には、Zangら(PLOS ONE 2009)が報告した動物モデルを用いた実験を行った。ヌードマウスの皮下にケロイド由来線維芽細胞+ヒアルロン酸細胞外マトリックスゲルを移植し、阻害剤Xを投与した。細胞移植翌日から治療開始し1か月投与した群が、一番効果的であった。また、GSEA解析から、未治療では細胞外基質形成やコラーゲンバンドル形成や骨形成といったケロイド病変で見られる機能や神経形成能が亢進していたが、阻害剤処理群ではそれらの機能が抑制されていることがわかった。最終年度は、④に対する阻害剤の影響をマイクロアレイ法により検討し、大きな遺伝子発現プロファイルの変化を認めないことを 確認した。これらの結果より、遺伝子Aがケロイド発生に関与しており、その阻害剤Xは、ケロイドに対する新治療薬になる可能性が示唆された。今後、遺伝子Aと関連する他の遺伝子についての解析を行い、より効果的で副作用の少ないケロイド治療外用薬の確立を目指す。
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