AChE活性測定系において、新規測定基質MATP+がOxime類により加水分解される新たな知見を昨年度明らかにした。この反応性は、神経剤暴露後の新規解毒剤投与による脳内AChE活性値を評価する上で極めて重要であることから、本年度はその詳細を検討した。はじめに、従来の測定基質ATChとMATP+について、ヒト赤血球由来AChEとヒト血清由来BChEに対する反応性について確認を行った。その結果、感度はいずれもATChで有意に高いが、MATP+でも十分な測定感度を示した。特異性はMATP+でAChEがBChEに対し有意に高かった。ラット血液を用いたLC-MS/MS分析においても、MATP+はAChEに対して高い反応性を示した。次に、新規解毒剤候補4-PAOのIn vivoでの測定系において、解毒剤投与濃度が脳内活性の測定結果に影響を与えるか確認を行った。すなわち、サリン類似体INMPを静脈投与し、急性中毒症状を確認後、硫酸アトロピンおよび4-PAOを静脈より連続投与し、採取した脳を用いて解析を行った。その結果、4-PAOによるMATP+分解濃度は0.1mM以上であるのに対し、臨床濃度に相当する2mg/kg静脈投与での脳内濃度は0.001mM以下と計算され、ネガティブコントロール内であることが示唆された。また、LC-MS/MS分析により、本実験における投与濃度では脳内に残存する4-PAOは検出されなかった。さらに0.01mM 4-PAOでDesacetyl MATP+は検出されず、MATP+は分解されないことも確認できた。以上の結果から、解毒に用いる濃度では脳内活性値に影響を与えず、MATP+を用いた活性測定系の有用性が明らかとなった。しかしながら、MATP+はATCh同様にOxime類により加水分解されることから、活性値測定では濃度に注意が必要であることが示唆された。
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