血小板内に存在するPLA2酵素(cPLA2、iPLA2β、iPLA2γに対する特異的阻害剤(pyrrophenone、S-BEL、R-BEL)を用いて、血小板凝集、脱顆粒(濃染顆粒)、エイコサノイド産生における役割を検討した。また、凝固因子や血小板を含んだ血漿画分を使用して、凝固系におけるそれぞれの酵素の役割についても研究を行った。 ヒト血小板を分離して、特異的阻害剤を添加した後にコラーゲンあるいはトロンビンで血小板を活性化した。血小板凝集、セロトニン放出、トロンボキサンB2産生について測定を行った。①血小板凝集能については、コラーゲン刺激に対してpyrrophenone、S-BEL、R-BELは濃度依存的に血小板凝集を抑制した。一方、トロンビン刺激に対する血小板凝集は、pyrrophenoneではなく、S-BELおよびR-BELによって濃度依存的に抑制された。②セロトニン放出では、コラーゲン刺激ではすべての特異的阻害剤が抑制したが、トロンビン刺激に対してはS-BELが有意に抑制した。③トロンボキサンB2産生については、pyrrophenoneのみがコラーゲン、トロンビン刺激による産生を完全に阻害した。 血液凝固能を評価することが可能な測定装置(TEG)を使用した。カオリンによる内因系凝固活性化では、S-BELのみが有意に阻害した。一方、ADP刺激による血液凝固反応はS-BEL、R-BELによって有意に抑制された。 以上の結果から、トロンビンやADPによる血小板の活性化にはiPLA2酵素、特にiPLA2βが強く関連し、コラーゲンによる活性化にはcPLA2酵素が作用すると考えられ、二つの酵素の活性化には基質特異性があることが示唆された。過剰なトロンビン産生を引き起こす敗血症の病態において、iPLA2活性の制御は重要な治療戦略に一つになるかもしれない。
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